はじめに
期待効用理論において、個人がリスクについて、どのような選好を有しているかが重要になります。
リスク愛好的・リスク中立的・リスク回避的に分類されるわけですが、人間の心理を考えると、リスク回避的の場合が大事になり、次のような図で、リスク回避的な場合の効用関数が表されます。
限界効用が逓減するような効用関数になり、利得xが大きくなるほど、期待効用u(x)の増加も小さくなります。
ところで、同じリスク回避的と言っても、どれだけリスクを避けたいかという度合いを考えれば、違いが生じます。
下図のような場合を考えましょう。
2つの曲線AとBについて、同じような曲線になっていますが、その形状に違いがあります。
それぞれの傾きを見ると、AのほうがBよりも大きくなっています。
Aのほうが傾きが大きいということは、利益の増加に対して、得られる効用はBよりも大きいので、よりリスク回避的と言えます。違う言い方をすれば、同じ効用の増加を得るためには、Bのほうがより大きな利得が求められ、よりリスクをとることが必要となります。
図で示せば、例えば、効用をu1からu2に増やすには、Aのほうが少ない利得の増加で済み、Bのほうがより大きい利得の増加である必要があることが分かります。
このように、同じリスク回避的であっても、その形状でリスク回避の度合いが異なることになります。
そうしたときに、リスク回避の度合いを見るときに、考えられたのが、「リスク回避度」という尺度です。
2つのリスク回避度
リスク回避度と言っても、「絶対的リスク回避度」と「相対的リスク回避度」の2つの尺度があります。
絶対的リスク回避度
利益を$x$、効用関数を$u(x)$とすると、絶対的リスク回避度$A(x)$は、次のように定義されます。
$\displaystyle A(x) = – \dfrac{u^{”}(x)}{u'(x)}$
なお、マイナスがついているのは、この値が大きいほど、リスク回避的であるということを分かりやすく表現するためです(関数の形状から$u^{”}(x) < 0$が成立していることに注意してください)。
この値が大きいほど、効用関数の曲がり方が大きく、よりリスク回避的であるという尺度になっています。
相対的リスク回避度
絶対的リスク回避度は、利得の大きさとは無関係ですが、利得の大きさでリスクに対する態度が異なると思います。利得が大きい状態ではリスクの影響も大きく、利得が小さい状態ではリスクの影響も小さいからです。
このような考えを元に、定義されるのが、相対的リスク回避度$R(x)$です。
$\displaystyle R(x) = – x \cdot \dfrac{u^{”}(x)}{u'(x)} = x \cdot A(x)$
絶対的リスク回避度に利得$x$を掛けて、ウエイト付けしたものとなっています。
なお、相対的リスク回避度$R(x)$を分かりやすく表現する効用関数として、次のようなものがあります。
$\displaystyle u(x) = \dfrac{x^{1 – \sigma}}{1 – \sigma} (\sigma \neq 1)$
理由としては、この効用関数の場合には、相対的リスク回避度が、次のように一定になるからです。
$R(x) = \sigma$
(導出方法)
この効用関数において、微分すると、一階・二階の条件は、次のようになります。
$u'(x) = x^{-\sigma}$
$u^{”}(x) = – \sigma \cdot x^{-\sigma – 1}$
相対的リスク回避度の式について、これらを代入すると、
$\displaystyle R(x) = – x \cdot \dfrac{u^{”}(x)}{u'(x)} = – x \cdot \dfrac{- \sigma \cdot x^{-\sigma – 1}}{x^{-\sigma}} = \sigma$
となり、この効用関数では、相対的リスク回避度$R(x)$は一定値$\sigma$になることが分かります。
リスク回避度の性質
よりリスク回避度の性質を知りたい方は、別にまとめていますので、参考にしてください。
参考
奥野正寛(編著)『ミクロ経済学』
川越敏司『「意思決定」の科学』