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不平等回避モデルについて

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投稿行動経済学中級
フェールとシュミットのモデルに基づき、不平等回避モデルについて、説明しています。
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はじめに

 人間は、自分の利益だけではなく、他人のために自らを犠牲にするという利他性があったり、他人から利益を受けたとき、その人にお返しをしたいという互恵性があるとされます。

 これらは素晴らしいことですが、それらは必ずしも純粋なものばかりではありません。

 利他性については、本当に自己犠牲のもとに他人のために行動を起こすだけではなく、自分を犠牲にすることによって、自分が利益を得られるという「見かけ上の利他性」というものがあります。

 互恵性についても、利益をお返しするだけではなく、自分を犠牲にしても他人を罰したいという「負の互恵性」もあります。

 このような心理状態を説明するものとして、「不平等回避モデル」というものがあります。

 以下では、フェールとシュミットのモデルに基づいて、不平等回避モデルを説明します。

不平等回避モデル

 $n$人のプレイヤーがいるとして、プレイヤー$i$の利得を$x_i$、効用関数を$u_i$とします。
 通常の効用関数では、自身の利得だけで効用を得ることができるので、$u_i(x_i)$となりますが、不平等回避モデルでは、他者の利得の影響も受け、

  $u_i(x_i \, , \, x_j) \quad (i \neq j)$

とします。

 ここで、不平等回避モデルでは、利得の差が効用に影響を与えるとして、プレイヤー$i$の効用関数は、次のように仮定されます。

  $\displaystyle u_i(x_i \, , \, x_j) = x_i \; – \; \alpha_i \dfrac{1}{n \; – \; 1} \sum_{j=1}^{n} \max[ x_j \; – \; x_i \, , \, 0] \; – \; \beta_i \dfrac{1}{n \; – \; 1} \sum_{j=1}^{n} \max[ x_i \; – \; x_j \, , \, 0]$

 なお、$\alpha_i \, , \, \beta_i$はパラメーターです。

 この式の意味合いとしては、

  右辺第1項 … 自己の利得から得られる効用

  右辺第2項 … 他者のほうが利得が高いときに感じる不効用

  右辺第3項 … 自己のほうが利得が高いときに感じる不効用

を示しています。ここで一つのポイントは、自己の利得のほうが高いときも、効用にマイナスの影響がある形になっています。

2人の場合

 不平等回避モデルは上記の通りですが、話を分かりやすくするため、プレイヤーが2人の場合($n=2$)を考えるとします。
 このとき、プレイヤー1の効用関数は、次のように表せます。

  $\displaystyle u_1(x_1 \, , \, x_2) = x_1 \; – \; \alpha_1 \max[ x_2 \; – \; x_1 \, , \, 0] \; – \; \beta_1 \max[ x_1 \; – \; x_2 \, , \, 0]$

 $\max$があると分かりにくいので、場合分けして考えると、

  $x_2 > x_1$のとき、$u_1(x_1 \, , \, x_2) = x_1 \; – \; \alpha_1 ( x_2 \; – \; x_1) \quad \cdots \quad (1)$

  $x_1 > x_2$のとき、$u_1(x_1 \, , \, x_2) = x_1 \; – \; \beta_1 ( x_1 \; – \; x_2) \quad \cdots \quad (2)$

となります。

 ここで、$(1)$式は、プレイヤー1にとって、もう1人のプレイヤー2の方が利得が大きいときのプレイヤー1の効用関数を表し、プレイヤー2の利得が大きいときには、プレイヤー1の効用が下がる形になっています。

 他方、$(2)$式は、プレイヤー1にとって、もう1人のプレイヤー2よりも自分の利得の方が大きいときのプレイヤー1の効用関数を表し、自分の利得が方が高いときには、その申し訳なさや罪悪感から、利得が下がる形になっています。

数値例

 $(1)(2)$式を元に、数値例でどうなるかを考えます。

 具体的には、プレイヤー1が1000を、プレイヤー2に配分する場合で、

  $\alpha_1 = 0.7$

  $\beta_1 = 0.6$

であるとします。

 このとき、プレイヤー2の利得を考えなければ、プレイヤー1はプレイヤー2に何も与えない(0を配分する)ことが合理的になります。

 しかし、不平等回避モデルは、プレイヤー1が配分する額について、その効用は、例えば、次のようになります。

  配分額0のとき、$u_1(1000 \, , \, 0) = 1000 \; – \; 0.6 \times (1000 \; – \; 0) = 400$

  配分額400のとき、$u_1(600 \, , \, 400) = 600 \; – \; 0.6 \times (600 \; – \; 400) = 480$

  配分額500のとき、$u_1(500 \, , \, 500) = 500 \; – \; 0.6 \times (500 \; – \; 500) = 500$

  配分額480のとき、$u_1(480 \, , \, 520) = 480 \; – \; 0.7 \times (520 \; – \; 480) = 452$

  配分額200のとき、$u_1(200 \, , \, 800) = 200 \; – \; 0.7 \times (800 \; – \; 200) = -220$

 数値例から分かるように、配分額500のように、平等に配分したときが、最もプレイヤー1の効用が高くなることが分かります。

 しかも、プレイヤー1にとって、配分額0として、自分で独り占めした場合よりも、配分額480として、プレイヤー2の利得を少し多めにしたほうが、プレイヤー1にとっては望ましいことになります。

 このように、自分の利益を犠牲にしていると見えますが、実際の効用は高まるという「見かけ上の利他性」が生じています。

 また、最後通常ゲームのように、プレイヤー2に拒否権がある場合を考えましょう。
 (最後通常ゲームについては、最後通牒ゲームについてを見てください)

 この場合、プレイヤー1の配分額が0のときには、

  配分額0のとき、$u_1(0 \, , \, 0) = 0 \; – \; 0.7 \times (0 \; – \; 0) = 0$

となり、少しでも利得が得られるような配分額200の場合よりも、効用が高くなります。

 すなわち、自分の利得を犠牲しても、相手の利得を下げるという「負の互恵性」が見られます。

参考

  大垣昌夫・田中沙織『行動経済学

  阿部誠『大学4年間の行動経済学が10時間でざっと学べる

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