概要
成長理論の基本として、まず挙げられるのが「ソロー・モデル」(Solow Model)です。
数学を使うとは言え、高度なものではなく、経済成長について、1つのベーシックな考え方を教えてくれるモデルとなっています。
そこで、このソロー・モデルについて、数式を交えて、説明したいと思います。
(数式計算の前に、基本的な考えを知りたい方は、「ソロー・モデルの意味合いを、式計算なしで導出・説明します」もご覧ください)
モデル
生産関数
まず、ソローモデルにおいては、労働力 $ L_t$、資本 $ K_t$ を用いて、産出量 $ Y_t$ が生産されるとします。このとき、生産関数として、収穫的逓減を仮定し、次のように定義します。
$ Y_t = F(L_t \, ,\, K_t)$
このとき、生産量は、労働力 $ L_t$、資本 $ K_t$ がどうなるかで決まることになるのですが、この生産関数 $ F$ は一次同次とします(ここが一つのポイントです)。
1人あたりの生産量 $ y_t = Y_t / L_t$ 、1人あたりの資本 $ k_t = K_t / L_t$ とすると、上記の式は、1次同次から、次のようになります。
$ \displaystyle y_t = \frac{Y_t}{L_t} = \frac{F(L_t \, ,\, K_t)}{L_t} = F(1 \, ,\, k_t)$
このことから、1人あたりの生産量 $ y_t$ は、1人あたりの資本 $ k_t$ だけの関数になるので、次のような式を得ることができます。
(なお、生産関数については、定数が混じっているので、$ F(1 , k_t) = f(k_t)$と置き換えています)
$ y_t = f(k_t) \quad \cdots \quad (1)$
この式のポイントは、1人あたりの生産量 $ y_t$ は、1人あたりの資本 $ k_t$ で決まるということです。
労働力
労働力 $ L_t$ については、一定の増加率 $ n$ で増加するとすると、次のようになります。
$ \displaystyle \frac{\dot{L_t}}{L_t} \, = \, n \quad \cdots \quad (2)$
なお、$ \dot{L_t}$ のドットは、時間微分した増加量を表します。
資本
このモデルにおいては、生産量はすべて消費と貯蓄に回るものとし、生産量に対する貯蓄率を $ s$ とすると、貯蓄は $ s Y_t$ と表すことができます。
そしてこの貯蓄は、すべて投資 $ I_t$ に回るとすると、
$ I_t = s Y_t \quad \cdots \quad (3)$
となります。
他方、一定の率 $ \delta$ で資本は減耗するとしたとき、資本の増加額 $ \dot{K_t}$ は、投資額 $ I_t$ に資本の減耗額 $ \delta K_t$ を引いたものになるので、次のように表すことができます。
$ \dot{K_t} = I_t – \delta K_t$
このとき、$ (2)$ 式を使うと、
$ \dot{K_t} = s Y_t – \delta K_t \cdots \quad (4)$
1人当たり資本増加額
ここで、1人当たり資本 $ k_t$ の増加率 $ \dot{k_t}/k_t$を考えると、
$ \displaystyle \frac{\dot{k_t}}{k_t} = \frac{\dot{K_t}}{K_t} – \frac{\dot{L_t}}{L_t}$
となるので、$ (2)(4)$ 式を使うと、
$ \displaystyle \frac{\dot{k_t}}{k_t} = \dfrac{s Y_t}{K_t} – \delta – n$
であり、$ Y_t / K_t = F(L_t,K_t) / K_t = f(k_t) / k_t$ が成立するので、
$ \displaystyle \frac{\dot{k_t}}{k_t} = \dfrac{s f(k_t)}{k_t} – \delta – n$
を得ることができます。
更に変形すると、
$ \dot{k_t} = s f(k_t) – (\delta + n) k_t \cdots \quad (5)$
となります。
そして、$ (1)$ 式から、1人当たり生産量 $ y_t$は、1人当たり資本 $ k_t$ で決まるので、この式から、1人当たり生産量 $ y_t$は、貯蓄率 $ s$ 、1人当たり資本の水準 $ k_t$、資本減耗率 $ \delta$、労働力増加率 $ n$ で決定することが分かります。
インプリケーション
資本の変化
貯蓄率 $ s$ 、資本減耗率 $ \delta$、労働力増加率 $ n$ は置いておいて、まずは、$ k_t$ について考えましょう。
このとき、$ (5)$ 式で、第1項の$ f(k_t)$ は収穫逓減なので、$ k_t$ が小さいほど、$ sf(k_t)$の値は大きくなります。他方、第2項では、$ – (\delta + n) k_t$ となっていることから、$ k_t$ が小さいほど、マイナスは小さくなります。このことから、1人当たり資本 $ k_t$ が小さいときは、$ (5)$ 式は、
$ \dot{k_t} = s f(k_t) – (\delta + n) k_t \gt 0$
となり、1人当たり資本 $ k_t$ は増加します。
逆に、$ k_t$ が大きいと、第1項の$ f(k_t)$ は小さくなり、第2項では、$ – (\delta + n) k_t$のマイナスは大きくなり、1人当たり資本 $ k_t$ は減少することになります。
つまり、次のことが$ (5)$ 式から、言えます。
資本が小さいとき ⇒ 資本は増加
資本が大きいとき ⇒ 資本は減少
定常状態
そして、このモデルにおいては、上記のような資本の調整過程が生じ、最終的には、資本は増減しない一定の状態になるとされます(これを「定常状態」)。
定常状態においては、$ \dot{k_t}=0$ になり、このときの1人当たり資本を$ k^{\ast}$ とすると、$(5)$ 式は、次のようになります。
$ s f(k^{\ast}) – (\delta + n) k^{\ast} = 0 \quad \cdots \quad (6)$
なお、生産関数がコブ・ダグラス型の生産関数であると仮定し、$Y =K^\alpha L^{1-\alpha}$とすると、生産関数は
$y_t = f(k_t) = k_t^\alpha$
であり、$(6)$式は、次のようになります。
$s (k^{\ast})^\alpha – (\delta + n) k^{\ast} = 0$
この式を解くと、定常状態における1人当たり資本は
$\displaystyle k^{\ast} = \left( \dfrac{\delta + n}{s} \right)^{1/(\alpha-1)} \quad \cdots \quad (7)$
であり、定常状態における1人当たり産出量$y^{\ast}$は、
$\displaystyle y^{\ast} = \left( \dfrac{\delta + n}{s} \right)^{\alpha/(\alpha-1)}$
となります。そして、$c =(1-s)y$に注意すると、定常状態における1人当たり消費
$\displaystyle c^{\ast} = (1-s) \left( \dfrac{\delta + n}{s} \right)^{\alpha/(\alpha-1)}$
を得ることができます。
貯蓄率の影響
次に、貯蓄率について考えると、$ (5)(6)$ 式から、貯蓄率が大きくなると、1人当たり資本の増加額、定常状態の1人当たり資本が大きくなることが分かります。
なお、生産関数をコブ・ダグラス型に特定化したときの定常状態である$(7)$式で確認すると、$0<\alpha<1$に注意すると、
$\displaystyle \dfrac{\partial k^{\ast}}{\partial s} = \dfrac{1}{1 – \alpha} \left( \dfrac{\delta + n}{s} \right)^{(2-\alpha) / (\alpha -1)} \dfrac{\delta + n}{s^2} > 0$
であり、貯蓄率が増加すると、定常状態の1人当たり資本が大きくなります。
黄金律
消費水準が最大となるような資本水準を「黄金律」と言いますが、別にまとめているので、そちらを参考にしてください。