はじめに
ミクロ経済学の不完全競争において、クールノー・ゲームやベルトラン・ゲームなどと同様に論じられるものとして、シュタッケルベルク・ゲームがあります。
2つの企業があるとき、クールノー・ゲームなどでは、同じような行動をとりますが、シュタッケルベルク・ゲームでは異なる行動をとるものとなっています。
このシュタッケルベルク・ゲームについて、数式を交えて、説明します。
シュタッケルベルク・ゲーム
前提
シュタッケルベルク・ゲームにおいては、企業1と企業2という2つの企業を考えます。
ただ、同じような行動をとるのではなく、先導者と追随者がいるとされます。
追随者は先導者の生産量に依存して、自社の生産量を決めるとします。先導者は、相手が追随者であることを想定し、自社の生産量に応じて、追随者が生産を行うことを読んで、自社の生産量を決めると考えます。
先導者 … 自社の生産量に応じた追随者の生産量を考慮して、自社の生産量を決定
追随者 … 先導者の生産量に応じて、自社の生産量を決定
企業$i$の生産量を$x_i$とし、市場における逆需要関数$P(x_1 + x_2)$について、
$P(x_1 + x_2) = a \; – \; b (x_1 + x_2)$
として、費用関数を$cx_i$とします。
以下では、企業1を先導者、企業2を追随者として、話を進めます。
追随者
まずは追随者の行動を考えましょう。
追随者は、先導者の生産量を所与として、自社の生産量を決めるとすると、企業2の利潤関数$\pi_2$は、次のようになります。
$\pi_2 = P(x_1 + x_2) x_2 \; – \; cx_2 = ( a \; – \; b (x_1 + x_2) ) x_2 \; – \; cx_2$
この式をもとに、企業2は利潤最大化を行うので、
$\dfrac{\partial \pi_2}{\partial x_2} = a \; – \; b (x_1 + x_2) \; – \; b x_2 \; – \; c = 0$
から、式を整理すると、
$x_2 = \dfrac{a \; – \; c}{2b} \; -\; \dfrac{1}{2} x_1 \quad \cdots \quad (1)$
となります。
追随者である企業2は、先導者の生産量に応じて、自社の生産量を決めることになり、企業1の最適反応関数になっています。
先導者
次に、先導者の利潤関数を$\pi_1$とすると、追随者と同様に、次のようになります。
$\pi_1 = P(x_1 + x_2) x_1 \; – \; cx_1 = ( a \; – \; b (x_1 + x_2) ) x_1 \; – \; cx_1$
ただ、先導者においては、追随者の生産量を読み込んで、生産量を決めるので、$(1)$式を代入すると、
$\pi_1 = \left[ a \; – \; b \left\{ x_1 + \left( \dfrac{a \; – \; c}{2b} \; -\; \dfrac{1}{2} x_1 \right) \right\} \right] x_1 \; – \; cx_1 = \dfrac{a \; – \; c}{2} x_1 \; – \; \dfrac{b}{2} x_1^2$
であり、企業1はこの式をもとに、利潤最大化を行うことになります。
$\dfrac{\partial \pi_1}{\partial x_1} = \dfrac{a \; – \; c}{2} \; – \; b x_1 = 0$
から、式を整理すると、
$x_1 = \dfrac{a \; – \; c}{2b} \quad \cdots \quad (2)$
となります。
この式には、$x_2$が入っておらず、先導者は、最終的には追随者の生産量に関係なく、自社の生産量を決めることになります。
シュタッケルベルク均衡
以上から、シュタッケルベルク・ゲームにおける均衡において、企業1と企業2の生産量は、$(1)(2)$式から、次のよりになります。
$x_1^* = \dfrac{a \; – \; c}{2b}$
$x_2^* = \dfrac{a \; – \; c}{4b}$
式から明らかなように、追随者である企業2よりも、先導者の企業1のほうが生産量が多くなっています。
更に、それぞれの利潤を計算すると、
$\pi_1^* = \dfrac{1}{8} \dfrac{(a \; – \; c)^2}{b}$
$\pi_2^* = \dfrac{1}{16} \dfrac{(a \; – \; c)^2}{b}$
となり、先導者である企業1のほうが、利益は大きくなっていることが分かります。
これらのことから、企業が先導者・追随者を選択できるとき、企業としては先導者になったほうがよいということになります。
シュタッケルベルクの不均衡
上記のように、先導者のほうが利益が多いため、先導者・追随者を選べるならば、企業1・企業2ともに、先導者になろうとするでしょう。
この場合には、相手の行動が読めないことになり、必ずしも均衡は実現しません。そして、このような状況を、「シュタッケルベルクの不均衡」と言います。
参考
奥野正寛(編著)『ミクロ経済学』
武隈愼一『ミクロ経済学』