はじめに
労働市場でどれだけ失業が発生しているのか、失業をいかに少なくするかというのは、マクロ経済学における1つのテーマです。
不況であれば、労働市場においては労働供給が過剰となり、当然失業が生じますが、GDPが完全雇用にあっても、自然失業率は存在し、何らかの摩擦があると考えられます。
例えば、労働市場においては、仕事を探している求職者と、働く人を求めている求人企業がおり、その2つがうまく互いを探し当て、労働契約を結ばなければ、その求職者は失業状態を脱することはできず、企業もその企業で働く人を探し続ける必要があります。
すなわち、求職者と求人企業がうまくマッチしなれば、失業は維持されることになるため、そのマッチングが問題になります。
そして、このマッチングの考えに基づき、労働市場を分析するのが、「サーチ理論」(サーチ・モデル)です(なお、このサーチは職探しの意味です)。
サーチ理論
マッチング関数
就職者数を$H$、失業者数を$U$、求人数を$V$とします。
失業者数が増えれば、求人企業は採用しやすい求職者と出会いやすくなり、求人数が増えれば、当然ながら、失業者は就職しやすくなると考えられます。
このような考えから、次のようなマッチング関数を定義できます。
$H = h(U \, , \, V \, , \, e) \quad (h_U >0 \quad , \quad h_V >0)$
なおここで、$e$はマッチングの効率性を表すパラメーターで、この値が大きいほど、就職者が増加するものとします($h_e >0$)。
議論を単純化するため、このマッチング関数がコブダグラス型であると仮定して、
$H = e V^\theta U^{1-\theta} \quad \cdots \quad (1)$
とします。
失業流出率と求人倍率
$(1)$式は、1次同次なので、
$\dfrac{H}{U} = e V^\theta U^{-\theta}$
であり、次のように表せます。
$\dfrac{H}{U} = e \left( \dfrac{V}{U} \right)^\theta$
ここで、左辺の$H/U$は、就職者を失業者で割ったものなので、失業者から就職になれる割合を示しています(これを「失業流出率」と言います)。
右辺の$V/U$については、求人数を失業者で割ったものなので、求人倍率を表していると考えられます。
なので、失業流出率を$f$、求人倍率を$\gamma$とすると、上記の式は、
$f = e \gamma^\theta \quad \cdots \quad (2)$
となります。
この式から分かるように、マッチング効率性$e$が上がったり、求人倍率$\gamma$が大きくなると、失業流出率$f$も高まり、失業者が就職者になる割合が増えることが分かります。
自然失業率
失業流出率の反対の概念として、失業流入率というものがあります。これは、就職していたものが仕事を辞め失業者になった率のことです。
このとき、自然失業率を$u^*$、失業流入率を$s$とすると、失業率については、次式が成立します(なぜ、このようになるかを知りたい方は、「自然失業率とは?」を見てください)。
$u^* = \dfrac{s}{s + f}$
この式に、$(2)$式を代入し整理すると、
$u^* = \dfrac{1}{1 + e \gamma^\theta / s}$
となります。
この式から、マッチング効率性$e$や求人倍率$\theta$が大きくなると、失業率は低下することが分かります。逆に、失業流入率が高まると、失業率が上昇することになります。
参考
齊藤誠・岩本康志・太田聰一・柴田章久『マクロ経済学』