はじめに
企業行動において、完全競争・独占・クールノー・ゲームは、それぞれ別のモデルとして語られますが、結果についてこれらのモデルが比較されたり、需要の価格弾力性の大きさで独占が完全競争になったりしたりと、これらのモデルはいずれも関係していると考えられるでしょう。
ところで、これらの理論をまとめたものがあれば、非常に便利であり、それが松村敏弘氏による「相対利潤アプローチ」です。
一本の式で、パラメーターを変化させれば、完全競争になったり、独占やクールノー・ゲームになったりします。
相対利潤アプローチ
2つの企業があるとして、それぞれの生産量を$x_i$、市場全体の生産量を$X$とします。
$x = x_1 + x_2$
それぞれの企業は、生産量を調整することで価格$P$をコントロールできるものとして、費用関数を$C(x_i)$とすると、企業$i$の利潤$\pi_i$は、
$\pi_i = P(X) x_i \; – \; C(x_i) \quad (i = 1 \, , \, 2)$
となります(なお、同質的な企業なので、費用関数は両企業で同じです)。
このとき、企業は、次のように、利潤最大化を行うとします。
$\displaystyle \max_{x_i} \; \pi_i \; – \; \alpha_i \pi_j \quad (-1 \leq \alpha_i \leq 1) \; (i = 1 \, , \, 2)$
そして、利潤最大化の1階条件は、次のようになります。
$P(X) + P'(X) x_i \; – \; C'(x_i) \; – \; \alpha_i P'(X) x_j = 0 \quad \cdots \quad (1)$
以下では、パラメーター$\alpha_i$の値が変わったときに、どうなるかを見ていきましょう。
$\alpha_i = 1$のとき
$\alpha_i = 1$のとき、$(1)$式は、両企業は同質的であり、$x_i=x_j$であることを考えると、
$P(X) \; – \; C'(x_i) = 0$
であり、「価格=限界費用」であることから、完全競争における企業行動の1階条件になります。
$\alpha_i = 0$のとき
$\alpha_i = 0$のとき、$(1)$式は、
$P(X) \; – \; C'(x_i) + P'(X) x_j = 0$
であり、完全競争の場合に比べて、$P'(X) x_j$が加わっていますが、これはクールノー・ゲームにおける企業行動の1階条件になります。
$\alpha_i = -1$のとき
$\alpha_i = -1$のとき、$(1)$式は、
$P(X) \; – \; C'(x_i) + P'(X) (x_i + x_j) = 0$
であり、「限界収入=限界費用」であり、両企業が統合された場合における独占の企業行動の1階条件になります。
まとめ
以上のように、相対利潤アプローチにおいては、$\alpha_i$を動かすだけで、モデルが完全競争になったり、独占やクールノー・ゲームになったりします。
参考
松村敏弘「相対利潤アプローチが拓く新しい(?)産業組織」、大垣昌夫・小川一夫・小西秀樹・田渕隆俊編『現代経済学の潮流2012』