はじめに
為替相場がどのように決定されるのかという問題について、いくつもの理論・考えがありますが、金利平価では、金利差により、為替相場が決定されると考えます。
投資家が自国通貨建て債券と外国通貨建て債券に投資する場合を考えて、為替相場の決定式を導出することになるのですが、カバーなし金利平価とカバー付き金利平価があります。
外国通貨建て債券に投資を行ったとき、その収益を自国通貨に交換する必要があります。
このとき、
カバーなし金利平価 … 収益を得たときの為替相場で交換する
カバー付き金利平価 … 先物取引で将来交換する為替相場を決定しておき、収益を得たとき、その為替相場で交換する
という違いがあります。
カバーなし金利平価
【自国通貨建て債券】
投資家は、自国通貨建て債券に投資をしたときには、利子率$i_t$とすると、収益率は次のようになります。
$1 + i_t \quad \cdots \quad (1)$
【外国通貨建て債券】
外国通貨建て債券に投資をする場合、投資家は$t$期に外国債券を購入し、$t+1$にその金利を得ますが、それを自国通貨に交換するとします。
外国債券の利子率を$i^*$、$t$期の為替相場を$S_t$とし、$t+1$期の予想為替相場を$S^e_{t+1}$とすると、収益率は
$(1 + i^*)\dfrac{S^e_{t+1}}{S_t} \quad \cdots \quad (2)$
となります。
【裁定取引】
自国通貨建て債券と外国通貨建て債券において、それぞれの収益が異なれば、収益が高いほうにより投資が行われ、収益が低いほうには投資は行われなくなります。
この結果、自国通貨建て債券と外国通貨建て債券の収益率は等しくなるので、上記の$((1)(2)$式から、
$1 + i_t = (1 + i^*)\dfrac{S^e_{t+1}}{S_t} \quad \cdots \quad (3)$
となり、カバーなし金利平価の式を得ることができます。
なお、この式を対数近似して、次のような形で、カバーなし金利平価が用いられることもあります。
(対数近似ついては、「対数の近似式について」あたりを参考にしてください)
$i_t = i^*_t + \dfrac{S^e_{t+1} \; – \; S_t}{S_t} \quad \cdots \quad (4)$
この場合には、金利と予想増価率が等しいという式になっています。
カバー付き金利平価
【自国通貨建て債券】
自国通貨建て債券に投資する場合は、カバーなし金利平価と同じなので、収益率は$(1)$式のものになります。
【外国通貨建て債券】
外国通貨建て債券に投資をする場合、カバー付き金利平価においては、$t$期に、将来、収益を得たとき、フォワード相場で自国通貨に交換する契約を行います。
外国債券の利子率を$i^*$、$t$期の為替相場を$S_t$とし、$t+1$期の予想為替相場を$S^e_{t+1}$とすると、収益率は
$(1 + i^*)\dfrac{F_{t+1}}{S_t} \quad \cdots \quad (5)$
となります。
【裁定取引】
カバーなし金利平価と同様に、裁定が働くすると、自国通貨建て債券と外国通貨建て債券の収益率は等しくなるので、$(1)(5)$式から、
$1 + i_t = (1 + i^*)\dfrac{F_{t+1}}{S_t} \quad \cdots \quad (6)$
というカバー付き金利平価を得ることができます。
そして、カバーなし金利平価の場合と同様に、対数近似したものも得ることができます。
$i_t = i^*_t + \dfrac{F_{t+1} \; – \; S_t}{S_t} \quad \cdots \quad (7)$
まとめ
以上をまとめると、$(3)(4)(6)(7)$式から、次のようになります。
式 | 対数近似式 | |
---|---|---|
カバーなし金利平価 | $1 + i_t = (1 + i^*)\dfrac{S^e_{t+1}}{S_t}$ | $i_t = i^*_t + \dfrac{S^e_{t+1} \; – \; S_t}{S_t}$ |
カバー付き金利平価 | $1 + i_t = (1 + i^*)\dfrac{F_{t+1}}{S_t}$ | $i_t = i^*_t + \dfrac{F_{t+1} \; – \; S_t}{S_t}$ |
式としては似ていますが、為替相場について、カバーなし金利平価では予想為替相場$S^e_{t+1}$、カバーつき金利平価ではフォワード相場$F_{t+1}$が用いられています。
参考
藤井英次『コア・テキスト国際金融論』
佐々木百合『国際金融論入門』