概要
マクロ経済学において貨幣量について学ぶとき、貨幣数量説ととも出てくるの「マーシャルのk」です。
結果としては、同じような話であり、一緒に論じられることもありますが、そもそもの考えは違います。
ここでは、マーシャルのkについて説明し、貨幣数量説との違いを説明します。
(なお、貨幣数量説に関しては「貨幣数量説について」で説明しています)
マーシャルのk
経済学者マーシャルは、個人が貨幣をもつ動機をスタートにしました。
貨幣には、取引手段としての便宜性と資産としての安全性があるため、個人は貨幣を一定額保有します。そして、この保有額は貨幣でどれだけ財・サービスを購入できるかによるとされます。
このとき、産出量を $ Y$ とすると、その一部である $katex kY$ だけ、貨幣が保有されることになります。
他方、貨幣量を$ M$ 、物価を $ P$ とすると、実質貨幣残高は、$ (M/P)^d$ で表せます。上記の個人による貨幣保有額 $ kY$ は、この実質貨幣残高に等しくなるので、
$ \left( \dfrac{M}{P} \right)^d = kY$
が成立します(これを「実質残高方程式」といいます)。
そして、このときの $ k$ が「マーシャルのk」と呼ばれるものです。
貨幣数量説への変形
上記の実質残高方程式はあくまでも貨幣需要を表すものですが、実質貨幣供給 $ M/P$ と一致するので、
$ \dfrac{M}{P} = kY$
が成立します。
このとき、貨幣の所得流通速度を $ V$ とし、$ k=1/V$ とすると、
$ MV = PY$
となり、貨幣数量説の式が導出できます。
この結果、マーシャルのkと貨幣数量説は同じことを言っていることになります。
マーシャルのkと貨幣数量説の違い
結果としては、同じような形になりますが、マーシャルのkと貨幣数量説では、次のような違いがあります。
・マーシャルのkは個人の資産選択をもとにしているが、貨幣数量説は取引をベースにして、貨幣を考えている
・マーシャルのkは貨幣需要をベースにしているが、貨幣数量説は貨幣供給をベースにしている
最後に
最後に一言。
個人的には、MMTなどを考えると、大きな違いがあると思っています。
物価の上下を考えたとき、貨幣数量説では貨幣の供給量を増減させればいいことになります。しかし、マーシャルのkでは、あくまでも個人の資産保有の在り方で貨幣量は決まり、物価とは無関係です。
MMTでは、内生的貨幣理論から貨幣量を政府・中央銀行がコントロールすることはできないとしており、実体経済の動向から貨幣量は決まると考えます。
この理解は、貨幣数量説では考えられないことですが、マーシャルのkを考えれば、分かりやすいのではないかと思います。
参考
鴇田忠彦・藪下史郎・足立英之『初級・マクロ経済学』