はじめに
計量経済学において、回帰分析を行うにあたり、推計モデルに制約があることがあります。
例えば、次のような回帰モデルを考えましょう。
$Y_i = \alpha + \beta X_{1i} + \gamma X_{2i} + \epsilon_i$
ここで、$\gamma = 1$という制約を考えます。$\gamma = 1$であることが明確ならば、式変形して、回帰分析すればいいのですが、それが分からない場合には、どうすればいいのでしょうか。
発想としては、制約がある場合とない場合を比較して、どちらがモデルとして相応しいのかを考えればいいでしょう。
そしてこのように、制約の妥当性を検証する検定方法として、F検定があります。
F検定
誤差項が正規分布$N(0 \, , \, \sigma)$に従い、系列相関がない場合の回帰モデルを考えます。
そして、F検定では、
帰無仮説:制約あり
対立仮説:制約なし
を考え、帰無仮説が棄却できるどうかを検定します。
具体的にはまず、データ数$n$、制約がある場合と制約がない場合で、推計を行い、残差二乗和を求めます。制約がある場合の残差を$e_{Ri}$、残差二乗和を$RSS_R$、制約がない場合の残差を$e_{Ui}$、残差二乗和を$RSS_U$とすると、
$\displaystyle RSS_R = \sum_{i=1}^n e_{Ri}^2$
$\displaystyle RSS_U = \sum_{i=1}^n e_{Ui}^2$
通常は、制約がある場合のほうが残差二乗和が大きくなるので、$RSS_R > RSS_U$が成立します。ただ、制約が正しければ、この2つの残差二乗和は近い値をとることになるでしょう。
すなわち、2つの残差二乗和を差し引いて、その差が大きければ、制約は間違っていると、差が小さければ、制約が正しいと考えられます。
これを見るために、次のようなF統計量
$F = \dfrac{(RSS_R \; – \; RSS_U)/J}{RSS_U / (n \; – \; K)}$
を定義します。ここで$J$は制約数、$K$は(定数項も含んだ)係数の数です。
このF統計量は、自由度$(J \, , \, n \; – \; K)$のF分布に従います。
ですので、F統計量を計算して、F分布のもと、
棄却できない ⇒ 制約は妥当
棄却できる ⇒ 制約は不要・誤り
という判断することになります。
おまけ
F検定では、誤差項が正規分布に従うと仮定しています。しかし必ずしも、そうとは言えないことがあります。
そうしたとき、データ数が多ければ、ワルド検定にて、制約の妥当性を検証することになります。
参考
黒住英司『計量経済学』
鹿野繁樹『新しい計量経済学』