はじめに
成長理論の多くは、家計(個人)は永遠に現役のまま生き続けると仮定されています。
しかし、実際の人間は、子供から大人になり、年齢を重ね老齢となり、亡くなります。そうすると、定常状態に行く前に亡くなってしまうので、他の成長理論が前提としているように、定常状態に向かって経済活動を行うというのは、おかしな話になります。
そこで、個々の人間は亡くなるが、それぞれの世代が経済活動を行った結果、経済全体がどのように成長するのかを考えたのが、「世代重複モデル(OLGモデル)」です(なお、経済学者のダイアモンドが考案したので「ダイアモンド・モデル」と言われたりもします)。
モデル
個人
個人には、若年期と老年期があるとして、若年期には働き賃金を得ますが、その1期後の老年期には働けず、若年期の貯蓄をもとに、消費を行うとします。
$t$期に若年期にある個人は、$c_{1t}$を消費し、$t+1$期になるとその個人は老年期になるので、$c_{2t+1}$を消費するとします。
老年期に消費するときには、消費を我慢しなければならないので、割引率を$\theta$とし、効用関数を$u$とすると、この個人は、次のような生涯効用を最大化することになります。
$u(c_{1t}) + \dfrac{u(c_{2t+1})}{1 + \theta}$
ところで、若年期には働き賃金を得て貯蓄を行いますが、老年期には若年期に蓄えた貯蓄を元に消費するので、賃金を$w_t$、貯蓄額を$s_t$、利子率をr_t$とすると、若年期と老年期それぞれの予算制約式は、次のようになります。
$c_{1t} + s_t = w_t$
$c_{2t+1} = (1 + r_{t+1}) s_t$
この予算制約のもと、上記の効用を最大化するので、効用最大化の1階条件は、
$u'(c_{1t}) = \dfrac{1 + r_{t+1}}{1 + \theta} u'(c_{2t+1})$
となります。
この式に、予算制約式を代入し、$c_{1t}$と$c_{2t+1}$をキャンセルすると、貯蓄について、次のような貯蓄関数を定義できます(右辺の$s$は関数であることに注意)。
$s_t = s(w_t \, , \, 1 + r_{t+1}) \quad (0 < s_1 < 1 \quad , \quad s_2 \gtrless 0) \quad \cdots \quad (1)$
なお、貯蓄関数$s(w_t \, , \, 1 + r_{t+1})$には、割引率$\theta$を入れることも可能ですが、省略しています。
企業
企業は完全競争のもと、資本$K_t$、(若年期の)労働力$L_t$を使って、生産を行うとします。
生産関数は1次同次であり、1人当たりの資本を$k_t = K_t / L_t$とすると、企業の利潤最大化の1階条件は、
$f(k_t) \; – \; k_t f'(k_t) = w_t \quad \cdots \quad (2)$
$f'(k_t) = r_t \quad \cdots \quad (3)$
となります。
財市場均衡
以上のもと、投資と貯蓄の財市場均衡を考えます。
まずは、純投資は、資本の差なので、次のようになります。
$K_{t+1} \; – \; K_t$
次に、純貯蓄は、$t$期に若年期の世代が蓄える額から、老年期の世代が取り崩した資本を差し引いた額になるので、$(1)$式より、次のようになります。
$L_t s(w_t \, , \, 1 + r_{t+1}) \; – \; K_t$
均衡では、純投資と純貯蓄が等しくなるので、
$K_{t+1} \; – \; K_t = L_t s(w_t \, , \, 1 + r_{t+1}) \; – \; K_t$
であり、人口増加率を$n$とすると、
$(1+n) k_{t+1} = s(w_t \, , \, 1 + r_{t+1}) \quad \cdots \quad (4)$
となります。
この$(4)$式を変形し、$(2)(3)$式を代入すると、
$k_{t+1} = \dfrac{s[f(k_t) \; – \; k_t f'(k_t) \, , \, f'(k_t)]}{1+n} \quad \cdots \quad (5)$
となります。
変数を見ると、人口成長率$n$は外生変数であり、$k_{t+1}$と$k_t$の関係式になっていることが分かります。
定常状態
$(5)$式から、定常状態を考えると、次のようになります。
$k^* = \dfrac{s[f(k^*) \; – \; k^* f'(k^*) \, , \, f'(k^*)]}{1+n}$
また、$(1)$式で、個人の割引率$\theta$を明示的に考えると、
$s_t = s(w_t \, , \, 1 + r_{t+1} \, , \, \theta)$
であるので、定常状態については、割引率と人口増加率で、(最適成長モデルと同様に)このモデルでは定常状態の値が決まることになります。
安定性
定常状態は定義づけられますが、この経済が定常状態に向かうかどうかが問題になります。
ここで、$(5)$式について、$k_t$で微分すると、
$\dfrac{d k_{t+1}}{d k_{t}} = \dfrac{- \; s_1 k_t f^{”}(k_t)}{1 + n \; – \; s_2 f^{”}(k_{t+1})}$
となります。
この右辺の大小で、1人当たり資本が増加していくか、低下していくかが決まることになります。
そして、大局的には大小があるとしても、定常状態の近傍において、$k_{t+1} = k_{t}$に近づくには、$d k_{t+1} / d k_{t} < 1$である必要があるので、
$\left| \dfrac{- \; s_1 k^* f^{”}(k^*)}{1 + n \; – \; s_2 f^{”}(k^*)} \right| < 1$
が安定性の条件になります。
参考
Olivier Blanchard, Stanley Fischer『Lectures on Macroeconomics』