概要
当たり前に使っている貨幣について、
「どれだけの貨幣量が必要か」
「多くあればいいのかもしれないが、その際に問題は生じないか」 など
といった疑問が生じます。MMT(現代貨幣理論)においては、新たな解釈を加えていますが、マクロ経済学において、教科書的なものとして、「貨幣数量説」というものがあります。
この貨幣数量説について、解説します。
フィッシャーの交換方程式
貨幣数量説の前に、その前提となるフィッシャーの交換方程式を説明します。
アメリカの経済学者フィッシャーは、貨幣の流通量と財・サービスの取引の量は関連しているとして、次のような方程式(フィッシャーの交換方程式)を定義しました。
$ MV = PT \qquad \cdots \qquad (1)$
なお、$ M$ は貨幣量、$ V$ は貨幣の取引流通速度、$ P$ は物価、$ T$ は一定期間の財・サービスの取引量を表します。
左辺は、貨幣量と貨幣の取引流通速度の積であり、一定期間に取引に使われた貨幣の流通金額の総額を表しています。
右辺は、物価と一定期間の財・サービスの取引量の積であり、一定期間に取引された財・サービスの取引総額を表します。
このように、このフィッシャーの交換方程式では、
貨幣の流通総額 = 財・サービスの取引総額
ということを表しています。
貨幣数量説
フィッシャーの交換方程式を考えれば、貨幣と取引の関係性が定義づけることができます。
しかし、取引量 $ T$ を測定することは難しいことから、実用性に欠ける面があります。そこで、取引量が多いと、実質所得は多いという比例関係を考えて、取引量 $ T$ の代わりに実質所得 $ Y$ を用いることを考え、
$ MV = PY \qquad \cdots \qquad (2)$
という方程式が定義されます。
なお、$ V$ は、フィッシャーの交換方程式とこの方程式では若干、呼び方・考えが異なります。フィッシャーの交換方程式では取引量に着目しているのに対して、この方程式では所得に着目しています。
このことから、$ V$ は
$ (1)$ 式 ⇒ 貨幣の取引流通速度
$ (2)$ 式 ⇒ 貨幣の所得流通速度
と呼ばれます。
ここで、$ (2)$ 式について、長期的に完全雇用が成立すると、実質所得 $ Y$ と貨幣の所得流通速度 $ V$は均衡するため、一定の$ Y^{\ast} \, , \, V^{\ast}$ を考えると、
$ P = \dfrac{V^{\ast}}{Y^{\ast}} \, M$
となります。
すなわち、$ V^{\ast} \, / \, Y^{\ast}$ は一定なので、貨幣量 $ M$ の量に応じて、物価 $ P$ が決まるということになります。
この「貨幣量が物価水準を決定する」という考えを、「貨幣数量説」 と言います。
マーシャルのK
$ (2)$ 式を、次のように変形します。
$ \dfrac{M}{P} = \dfrac{1}{V}\cdot Y$
このとき、$ k = 1 / V$ とすると、
$ \dfrac{M}{P} = k Y$
という式が得られます。このとき、この $ k$ を「マーシャルのk」 と言います。
参考
鴇田忠彦・藪下史郎・足立英之『初級・マクロ経済学』