概要
マクロ経済学の成長理論で、まず出てくるのが「ソロー・モデル」(Solow Model)だと思います。
モデルとしてはシンプルですが、
「とにかく、数式計算が出てきてややこしい」
と思う方も多いと思います。特に、経済学全般を考えると、数学的には難しくはないのですが、数学が苦手な人からすると、難しい印象をもつこともあるでしょう。
ただ、式計算をしなくても、ソロー・モデルの結論を出すことができます。
そして、式計算に惑わされて、その本質を見失うこともあるように思っており、敢えて式計算なしで、ソロー・モデルを説明したいと思います。
ソロー・モデル
前提
ソロー・モデルにおいては、資本を用いて、生産を行うと考えます。
ただ、人口1人あたりで考えるので、1人当たりの資本で、1人当たりの生産量が決まることになります。
このとき、下のような図のように、1人当たりの資本が多くなると、1人当たりの生産量も増えますが、その増加は弱まっていくと仮定します。
そして、ソロー・モデルでは、1人当たりの資本や1人当たりの生産量が、どれだけの水準に落ち着くのかを検討します(経済学的に言い換えれば、1人当たりの資本や1人当たりの生産量がどの水準で均衡するのか、安定するのかを考えます)。
投資
上の図のように、1人当たりの資本が決まれば、1人当たりの生産量も決まるので、問題は1人当たりの資本がどうなのかということになります。
更に、資本は投資の積み重ねなので、毎期の投資がどうなるかという問題になります。
このとき、投資について、供給面と需要面を考えましょう。
投資(供給面)
まずは、
・1人当たり生産量は、1人当たり所得に等しい
・所得に対して、一定の貯蓄率に貯蓄を行う
・貯蓄はすべて投資に回る
とします。
そうすると、次のような形で、投資に回るお金を計算することができます。
投資 = 貯蓄率 × 1人当たり生産量 … (1)
投資(需要面)
他方、生産にあたって、必要な投資は、どれだけになるでしょうか。
1つは、資本は年々古くなるため、その価値は落ちていきます。これを「減耗率」というわけですが、減耗率分は投資を行わなければ、資本は減少し、生産量も落ちてしまいます。
もう1つは、人口の増加です。人口が増加すると、1人当たり資本は少なくなるので、生産量を維持するには、その分の投資が必要になります。
この2つを考えると、必要な投資は
投資 = (減耗率 + 人口増加率) × 1人当たり資本 … (2)
となります。
定常状態
投資における供給と需要が一致した場合には、過剰投資・過少投資が行われず、1人当たり資本は変化しないことになります。そして、必然的に1人当たり生産量も変わらないことになります。
言い換えれば、(1)(2)式から、
貯蓄率 × 1人当たり生産量 = (減耗率 + 人口増加率) × 1人当たり資本 … (3)
となるとき、経済は変化せず、1人当たりで見た場合の経済成長はストップすることになります。
そして、これを「定常状態」と言い、ソロー・モデルの1つの結論です。
これを図に表すと、下図のようになります(ソロー・モデルの説明には、必ず出てくる図です)。
過小資本
当初、この経済において、1人当たり資本が定常状態よりも少ない場合を考えましょう。
図においては、下図のように、1人当たり資本がk1である場合です。
(3)式でいえば、
貯蓄率 × 1人当たり生産量 > (減耗率 + 人口増加率) × 1人当たり資本
というように、投資資金はあるが、それに対する需要が足りない状態です。資金があるので、まだまだ1人当たり資本を増やすことができ、1人当たり資本を増やせば1人当たり生産量も増やすことができます。
この結果、定常状態に向かって、1人当たり資本が増えるように経済は動いていき、経済成長が起こることになります。
過剰資本
過小資本とは逆に、当初、この経済において、1人当たり資本が定常状態よりも多い場合を考えましょう。
図においては、下図のように、1人当たり資本がk2である場合です。
(3)式でいえば、
貯蓄率 × 1人当たり生産量 < (減耗率 + 人口増加率) × 1人当たり資本
というように、投資需要はあるが、それに対する投資資金が足りない状態です。1人当たり生産量を維持するには、一定の投資が必要なのですが、それに対する資金が足りないので、1人当たり資本を減らさざるを得ません。
この結果、定常状態に向かって、1人当たり資本が減少するように経済は動いていき、経済は減少することになります。
ポイント
ソロー・モデルは面倒な式計算をやっていますが、1人当たりの投資について、需要と供給がどうなるかを考えています。
上の話をまとめると、1人当たり投資について、
定常状態 … 供給 = 需要 ⇒ 経済の成長は止まる
過小資本 … 供給 > 需要 ⇒ 経済は成長する
過剰資本 … 供給 < 需要 ⇒ 経済は落ち込む
ということになります。
どうしても、ソロー・モデルを学ぼうとすると、計算に目が行ってしまいますが、このような考えがあることは覚えておきましょう。
なお、数式モデルに興味がある場合には、「ソロー・モデルを解説(数式あり)」も読んでください。
参考
鴇田忠彦・藪下史郎・足立英之『初級・マクロ経済学』
中村保・北野重人・地主敏樹『マクロ経済学』