クラウディングアウト
財政政策におけるクラウディングアウトとは、財政支出を増加させたときに、所得の増加をもたらしますが、金利が上昇することで投資が抑制され、財政支出の効果が弱まることを言います。
IS曲線だけでは、クラウディングアウトは発生しませんが、LM曲線が加わることで、金利への影響が生じ、クラウディングアウトが生じます。
そこでこの2つを数式で比較し、説明してみましょう。
比較
クラウディングアウトがない場合
所得を$Y$、消費を$C$、投資を$I$、政府支出を$G$とすると、
$Y = C + I +G$
となります。ここで、消費関数、投資関数を
$C = c Y$
$I = \bar{I} \; – \; \mu i$
とします。消費関数の$c$は限界消費性向で、投資関数の$\bar{I}$は独立投資、$r$は利子率で$\mu$はその係数となっています。
このとき、IS曲線は
$Y = \dfrac{\bar{I} \; – \; \mu i + G}{1 \; – \; c} \quad \cdots \quad (1)$
となり、政府支出増加の効果は、次のようになります。
$\dfrac{d Y}{d G} = \dfrac{1}{1 \; – \; c} \quad \cdots \quad (2)$
クラウディングアウトがある場合
このときには、IS曲線だけではなく、LM曲線も考えることになります。
貨幣供給を$M$、物価を$P$、貨幣需要関数を$L$とすると、
$\dfrac{M}{P} = L(Y \, , \, i)$
となります。ここで、貨幣需要関数$L$について特定化を行い、
$\dfrac{M}{P} = \alpha Y \; – \; \theta i \quad \cdots \quad (3)$
とします。
IS曲線とLM曲線の均衡を考え、$(1)(3)$式から、$Y$をキャンセルすると、
$\dfrac{\bar{I} \; – \; \mu i + G}{1 \; – \; c} = \dfrac{1}{\alpha} \left( \dfrac{M}{P} + \theta i \right)$
であり、$i$について解くと、
$i = \dfrac{\alpha (1 \; – \; c)}{\theta (1 \; – \; c) + \mu \alpha} \left( \dfrac{\bar{I} + G}{1 \; – \; c} \; – \; \dfrac{M}{\alpha P} \right)$
となります。
ここで、政府支出増加により、利子率がどうなるかを見てみましょう。
$\dfrac{d i}{d G} = \dfrac{1}{1 \; – \; c} \dfrac{\alpha (1 \; – \; c)}{\theta (1 \; – \; c) + \mu \alpha} > 0$
より、政府支出増加が利子率を上昇させることが分かります。
更に、その所得への効果は、
$\dfrac{d Y}{d G} = \dfrac{1 \; – \; \mu (di / d G) }{1 \; – \; c} = \dfrac{1}{1 \; – \; c} \cdot \dfrac{\theta(1 \; – \; c)}{\theta(1 \; – \; c) + \mu \alpha} \quad \cdots \quad (4)$
となります。式から、政府支出増加は所得も増加させることは明らかですが、
$\dfrac{\theta(1 \; – \; c)}{\theta(1 \; – \; c) + \mu \alpha} < 1$
なので、
$\dfrac{1}{1 \; – \; c} > \dfrac{1}{1 \; – \; c} \cdot \dfrac{\theta(1 \; – \; c)}{\theta(1 \; – \; c) + \mu \alpha}$
となります。
この式の左辺はクラウディングアウトがない場合の効果である$(3)$式で、右辺はクラウディングアウトがある場合の効果である$(4)$式であり、クラウディングアウトにより、乗数が小さくなっていることが分かります。