はじめに
マクロ経済学において、RBC(実物的景気循環論)を学ぶとき、RBCはラムゼーの最適成長モデルを改良したものと言われます。
モデルを見たときに、似ているけど少し違うと感じたり、何よりも最終的にやっていることが違っていると感じたりすると思います。
この2つは何が違うのかについて知ると、これらのモデル(特にRBC)の特徴が見えてくると思うので、最適成長モデルとRBCの違いについて、説明したいと思います。
最適成長モデルとRBCの違い
目的
この2つのモデルの最も大きな違いは、その目的です。
マクロ経済学の教科書を見たら、最適成長モデルが成長論の中で語られるのに対して、RBCは景気循環の中で語られることが多いと思うのですが、これは、目的が異なるからです。
最適成長モデルは経済がどのようにしたら成長するのか、成長するにはどのような条件があるのかなど、成長が主眼に置かれています。しかし、RBCでは景気循環がどうしたら起こるのかを説明するためのモデルであり、この景気循環を説明するために、最適成長モデルを利用したと言えるでしょう。
ですので、最適成長モデルは、経済がどのように成長・変化するのか、定常状態はどうなのかなどに主眼が置かれ、RBCでは景気循環が発生するメカニズムの説明が、中心になってきます。
労働供給
次に大きな違いは、労働供給です。
最適成長モデルにおいては、完全雇用のもと、労働供給は考えられていません。供給された労働力(人口)はすべて生産に使われ、ある意味、外生的に決定されます。
しかし、RBCでは、消費者は、消費するのか休暇をとるのかの選択の中で、消費者は労働供給を考えます。ですので、最適成長モデルにはなかった、余暇(労働供給の不効用)というものが、消費者の効用関数に入ってきます。
外生的なショック
最適成長モデルでも、技術進歩が導入されたりもしていますが、あまり重要ではありません。
しかし、RBCでは、技術進歩は確率的に変動するものとされ、外生的なショックを与える要素となっています。
(なお、政府支出も外生的ショックとして扱われることもあります)
最適成長モデルだけでは、消費者や企業は合理的行動すると仮定すると、経済が変動する余地はありません。もちろん、消費が確率的に変動するようなモデルも考えられるかもしれませんが、それでは消費者は合理的に行動していると言えません。
そこで、技術進歩が確率的に変動として、外生的なショックを組み入れて、RBCでは景気循環を生み出すことになっています。
カリブレーション
最適成長モデルは決定論的であり、あるパラメーターのもと、完全予見下で定常状態に向かうと考えられます。逆に言えば、どのように定常状態に向かうのかが、重要になります。
しかしこれでは、実証的にはあまり役に立たないことが分かります。ある経済データがあっても、最適成長モデルでは必ず定常状態に向かうはずであり、せいぜい定常状態におけるパラメーターについて、経済データを適用する程度になってしまいます。
半面、RBCでは、外生的なショックがあるので、一定のパラメーターの数値を仮定し、この外生的なショックを使えば、消費や資本などの変数がどうなるかをシミュレーション(カリブレーション)することができます。
定常状態
どちらのモデルにおいても、定常状態は計算されます(計算できます)。
最適成長モデルでは、定常状態は経済が向かうべきゴールであり、そこにおける分析は重要となりますが、RBCにおいてはそれほど重要ではありません。
なぜなら、RBCは景気循環に関するモデルであり、外生的なショックが時折繰り返されることによって、波が生じると考えるため、定常状態よりも、そのショックによる変化のほうが重要だからです。
ただ、RBCにおいては、定常状態をスタート地点として、カリブレーションを行うことになるため、ある意味、重要とも言えます。
まとめ
以上をまとめると、次のようになると言えるでしょう。
最適成長モデル | RBC | |
---|---|---|
目的 | 経済成長 | 景気循環 |
労働供給 | なし | あり |
外生的ショック | 定数 | 確率 |
カリブレーション | なし | あり |
定常状態 | 重要 | スタート地点 |
参考
長沼伸一郎『経済数学の直観的方法 マクロ経済学編』
蓮見亮『動学マクロ経済学へのいざない』
加藤涼『現代マクロ経済学講義』