はじめに
マクロ経済学のAD-AS分析において、総供給曲線(AS曲線)の話が出てきます。
下の図のように、右上がりの曲線になり、供給に関する曲線だからそうなるのであろうと思うかもしれませんが、しっかりとしたロジックがあるので、なぜそうなるのか、説明したいと思います。
導出方法
産出量を$Y$とし、企業は、生産関数$F$のもと、労働力$L$を用いて生産を行うものとします。
$Y = F(L) \quad F’ > 0 \, , \, F^” < 0 \quad \cdots \quad (1)$
なお、名目賃金$w$は短期的には一定なので、
$w = \bar{w}$
とします。
このとき、価格を$p$とすると、企業は次のような利潤関数$\pi$に直面します。
$\pi = p F(L) \; – \; \bar{w} L$
そして、企業が利潤を最大化するとき、1階条件は、
$F'(L) = \dfrac{\bar{w}}{p} \quad \cdots \quad (2)$
となります。
ここで、物価$p$が上昇した場合を考えましょう。
$(2)$式から、$p$が大きくなると、右辺の値は小さくなります。これに合わせて、$(2)$式の左辺$F'(L)$も小さくなるのですが、$(1)$式から、$F^” < 0$であることに注意すると、$Y$が大きくなることになります。
すなわち、物価$p$が上昇すると、$Y$も大きくなるので、総供給曲線(AD曲線)は右上がりとなります。
経済的な表現でいえば、物価が上昇すると、実質賃金$w/p$が低下するので、企業はより多くの労働力を確保でき、より多く生産を行うことができるということです。
数式で説明
参考までに、数式でもどうなるかを見ておきましょう。
物価$P$の増減に対して、産出量$Y$がどうなるかを見たいため
$\dfrac{d Y}{d P}$
がどうなるかを考えましょう。
この式を変形し、$(1)(2)$で微分した式を代入すると、
$\dfrac{d Y}{d P} = \dfrac{d Y}{d L} \cdot \dfrac{d L}{d P} = F'(L) \cdot \left( \; – \; \dfrac{F^”(L)}{w} \right)$
となり、$F’ > 0 \, , \, F^” < 0$に注意すると、
$\dfrac{d Y}{d P} > 0$
であることが分かります。すなわち、物価が上昇すると、産出量も増加することになります。