クリティカル・マス
ネットワーク外部性とは、使う人が多いほど、個々人の効用・便益が上がり、どんどんとその財・サービスを利用する人が増える現象です。
ある財・サービスが市場に投入されたとき、その当初は利用する人があまりおらず、その財・サービスは中々普及しません。しかし、ある程度のその財・サービスを利用する人が増えてくると、普及率がどんどんと上がっていきます。
例えば、SNSを考えましょう。新たなSNSが登場したとき、その利用者数は少ないので、SNSでつながる人も少なく、普及は難しいと考えられます。しかし、ある程度の普及者数を超えてくると、SNSでつながる人も増えるので、どんどんと普及が進むことになります。
そして普及しない状態と普及が進む状態の臨界的な普及率を「クリティカル・マス」(Critical Mass)と言います。
普及率が低い ⇒ 普及が全く進まない
普及率がクリティカル・マスを超える ⇒ 普及がどんどんと進む
理論的な考え
直観的には理解ができると思うのですが、理論的に説明しましょう。
ある財の普及率を$n \, (0 \leq n \leq 1)$として、財が普及することで得られる増分効用を$u(n)$とすると、この財の利用者の効用は$n u(n)$となります。
財の利用料を$p$とすると、利用料よりも大きい効用が得られれば、この財は利用され、効用よりも利用料が大きければ、この財は利用されませんので、次のようになります。
$p < n u(n)$ならば、利用する $p > n u(n)$ならば、利用しない
ところで、増分効用について普及するほど、増分効用は減少すると仮定して、
$u(n) = 1 \, – \, n$
とすると、
$p < n (1 - n)$ならば、利用する $p > n (1 – n)$ならば、利用しない
となり、$p = n (1 – n)$という式をもとに、下図のようなものを描くことができます。
このとき、$n_c$よりも利用率が小さければ(図の$n_c$の左側)、効用よりも利用料のほうが高いので、利用は行われず、利用率は0に向かうことになります。
しかし、利用率が$n_c$よりも多くなると(図の$n_c$の右側)、利用料よりも効用のほうが大きいので、利用率は上昇していきます。
このように、$n_c$が利用率が大きくなるかどうかの分岐点であり、「クリティカル・マス」となります。
なお、この図においては、最終的には$n_*$で、利用率は均衡することになります。$n_*$よりも利用率が大きいときには、効用よりも利用料のほうが高くなってしまうため、利用率は$n_*$に落ち着くことになるからです。
参考
柳川隆・川濵昇編『競争の戦略と政策』