はじめに
マクロ経済学のIS-LM分析においては、IS曲線は右下がりで、LM曲線は右上がりの線として描かれ、分析が行われます。
しかし、金利が低くなると、LM曲線が水平になる現象があるとされ、「流動性の罠」と呼ばれています。
下図のように、IS曲線は右下がりのままなのですが、LM曲線は水平になり、金融政策により、LM曲線をシフトさせようとしてもどうにもならないことが分かります。
この場合に、総所得を上げるには、財政政策により、IS曲線を右にシフトさせるしかないとされます。
ところで、この流動性の罠が、なぜ生じるのでしょうか。
教科書を読めばわかるのですが、実はここが曲者で、教科書によって、説明が異なっています。
理由としては、流動性の罠がなぜ生じるのかについて、2つの見方があるからです。
2つの見方
流動性選好説
流動性の罠の原因について、伝統的な見方が、この流動性選好説です。
LM曲線は貨幣市場におけるもので、均衡では、次が成り立つとされます。
貨幣供給 = 貨幣需要
ここで更に、貨幣需要においては、
貨幣需要 = 取引需要 + 投機的需要
に分けられると考えます。
取引需要は、経済活動が活発になるほど、取引が増えるので、貨幣に対する需要は増えると考えます。そのため、総所得に影響されます。
投機的需要は、債券をもつのか、貨幣をもつのかで、増減する貨幣需要です。債券の金利が高くなれば、債券をもっていたほうが儲かるので、この投機的需要は下がります。逆に、債券の金利が低くなれば、債券をもっていても、たいして儲からないので、貨幣を保有への需要が高まります。
貨幣ならば財・サービスを購入できますが、債券をもっていても、財・サービスを購入できるわけではないので、金利が低くなれば、貨幣をより持っていたほうがいいと、人々は考え、貨幣需要は高まるとされます。このように、貨幣を持っていたほうが取引はしやすいということから、「流動性選好説」と呼ばれます。
そうすると、債券の金利に対しては、人々は影響されなくなり、LM曲線は水平になると考えられます。
まとめると、次のようなプロセスになります。
①債券が低金利
②投機的需要が高まる(債券より貨幣をより持つようになる)
③貨幣を持つようになるので、金利の増減は影響を及ぼさない
名目利子率のゼロ制約
そもそもケインズが想定しなかった、流動性の罠の原因が、名目利子率のゼロ制約というものです。
フィッシャー方程式を想定し、期待インフレ率がゼロとすると、
名目利子率 = 実質利子率
が成り立ちます。
ところが、名目利子率は、ゼロ以下にすることはできませんので、ゼロ金利のあたりで、LM曲線は水平になるというものです。
分かりやすく図で考えてみましょう。
LM曲線自体は右上がりなのですが、一定の総所得以下では、金利のゼロ制約があるため、LM曲線は水平になります。
点Yにあるようなときには、ゼロ金利状態にあるわけですが、金融政策でLM曲線を右にシフトさせたとしても、IS曲線とLM曲線の乖離が大きくなるだけで、総所得を金融政策で増やすことはできません。
最後に
マクロ経済学で、流動性の罠を学ぶことがあると思いますが、実は原因について、この2つの見方がありますので、どちらで説明されているのかを考えながら、流動性の罠について、学んでほしいと思います。
参考
福田慎一・照山博司『マクロ経済学・入門』
鴇田忠彦・藪下史郎・足立英之『初級・マクロ経済学』
中村保・北野重人・地主敏樹『マクロ経済学』