はじめに
ミクロ経済学の生産者行動において、短期費用関数と長期費用関数の話が出てきます。
短期費用関数では一部の生産要素に固定費用があり、長期費用関数ではその固定費用が調整できるとされます。
この結果、
「最適な固定生産要素投入量のもとでの短期費用曲線は、長期費用曲線と接する
それゆえに、短期費用曲線は長期費用曲線の上方に位置し、長期費用曲線は短期費用曲線の包絡線となる」
とされます。
論理としては分かりますが、どうもすっきりしない感じの方もいるのではないでしょうか。
そこで、ここでは数式でなぜこのような話になるのかを説明します。
短期費用関数と長期費用関数の関係
短期費用関数
企業は、労働力$L$と資本$K$を用いて、生産物$Y$を生産しているものとします。このときの生産関数は$Y = F(L \, , \, K)$とできますが、この生産関数について、$L$について解いて、
$L = L(K \, , \, Y)$
という関数を定義します。
賃金率を$w$、利子率を$r$とすると、短期費用関数$C^S$は、次のようになります。
$C^S = w L(K \, , \, Y) + r K \quad \cdots \quad (1)$
なお、短期においては、資本$K$は固定的であり、固定生産要素となっているとします。
長期費用関数
長期においては、固定生産要素である資本も生産量に応じて調整することになります。そこで、資本と生産量の関係を示す
$K = K(Y)$
という関数を定義します。
このとき、長期費用関数$C^L$は、次のようになります。
$C^L = w L( K(Y) \, , \, Y) + r K(Y) \quad \cdots \quad (2)$
短期費用関数の長期化
ここで、短期費用関数に戻り、短期費用関数について、考えます。
短期費用関数$C^S$は、長期においては、資本も調整可能なので、$(1)$式において、費用を最小化するように資本量を決定するものとします。
このときの条件は、
$\dfrac{\partial C^S}{\partial K} = w L_1 + r = 0 \quad \cdots \quad (3)$
となります。
短期・長期の限界費用
以上から、短期・長期の限界費用を調べます。
まずは、短期費用関数における限界費用は、$(1)$式から、次のようになります。
$\dfrac{\partial C^S}{\partial Y} = w L_2$
他方、長期費用関数における限界費用は、$(2)$式から、
$\dfrac{\partial C^L}{\partial Y} = w L_1 K’ + wL_2 + r K’$
となりますが、$(3)$式を使うと、次を得ることができます。
$\dfrac{\partial C^L}{\partial Y} = w L_2$
すなわち、
$\dfrac{\partial C^S}{\partial Y} = \dfrac{\partial C^L}{\partial Y}$
であり、短期費用関数と長期費用関数の限界費用は等しくなることが分かります。
限界費用が等しいということは、それぞれの曲線が接するということを示しています。
なお、「最適な固定生産要素投入量のもとでの短期費用曲線」というものは、$(3)$式で保証されていることになります。
参考
武隈愼一『ミクロ経済学』
奥野正寛(編著)『ミクロ経済学』
奥野正寛・鈴村興太郎『ミクロ経済学Ⅰ』