概要
労働市場において、人が余れば失業率が上昇し、人が足りなければ失業率が高くなるというのは、ある意味、常識として分かる話ではないかと思います。
常識的にどうかは別として、人手不足や失業というのは、経済学的には問題です。特に、短期にはこのような問題は生じたとしても、長期的にこのような状況が続くのは望ましくありません。
そこで、人手不足と失業について、その関係を見たのが、「UV曲線(ベヴァリッジ曲線)」です。
UV曲線(ベヴァリッジ曲線)
UV曲線とは、
「失業(unemployment)と欠員(vacancy)の関係を表す曲線で、失業率と欠員率は反比例する」
というものです。
グラフにすると、下図のような感じです。
企業が好調で人手不足であれば、何とか人員を確保しようとするため、失業は減ります。逆に不況で人手が余れば、リストラ・人員整理などで失業率は高まります。
このような関係を表しているのが、UV曲線です。
なお、現在では当たり前と言える関係ですが、この関係を発見したベヴァリッジ(Beveridge)の名をとり、ベヴァリッジ曲線と呼ばれたりもします。
この曲線は当然成立するのか?
上記のように、この関係は分かりやすく、上記のように「当たり前」と言いました。
しかし、この関係は、ちょっと考えれば、成立しないことが考えられます。
例えば、企業が設備を入れたり、IT化を進めれば、人手は要らずに生産は維持・向上でできるので、欠員率は高まらず、失業率が高いという事態が考えられます。
逆に、政府が失業手当などを充実させれば、企業が人手不足でも、よりよい条件出なければ、失業手当を受給していたほうがよく、欠員率は高いが、失業率は変わらないということもありえます。
また、すぐに人を集められる状況であったり、リストラなどをしやすい状況であれば、反比例の関係は成立するかもしれませんが、その強度に違いが出てくるでしょう(上記のグラフで言えば、下の曲線から上の曲線へのシフトする形)。
このように考えると、当たり前と言えるこの「UV曲線(ベヴァリッジ曲線)」は、実はそういうわけではないことが理解できると思います。
日本経済におけるUV曲線
実際、日本経済においては、必ずしもこのUV曲線が成立しているわけではないので、注意が必要です。
下図は、独立行政法人労働政策研究・研修機構が出している1967年から現在までのUV曲線です。
(参考)独立行政法人労働政策研究・研修機構「均衡失業率、需要不足失業率(ユースフル労働統計フォローアップ)」
この図を見ればわかるように、かなりクネクネした線になっています。
そして、期間別に考えると、次のようなことが言えるのではと思います。
・1967年~1970年代:右下がりのUV曲線が成立
・1980年代:垂直なUV曲線
・1990年代前半:垂直なUV曲線が右にシフト
・1990年代後半:垂直なUV曲線が左上にシフト
・2000年代:右上にUV曲線がシフトし、右下がりのUV曲線が成立
・2010年代:やや左下にUV曲線がシフトし、右下がりのUV曲線が成立
・現在:やや左下にUV曲線がシフトし、右下がりのUV曲線が成立
このように、必ずしも右下がりのUV曲線が成立しているわけではなく、成立していても、構造変化などで曲線はシフトを繰り返していることが分かります。
参考
齊藤誠・岩本康志・太田聰一・柴田章久『マクロ経済学』