はじめに
節約のパラドックスとは、
誘発投資が存在する場合に、限界貯蓄性向が上昇すると、貯蓄は減少する
というものです。
直観的には、国民がより貯蓄をするようになり、限界貯蓄性向が上昇すれば、貯蓄は増えるはずなのですが、むしろ逆になる状況です。
ただ、どのような場合にもこの状況が生じるわけではなく、誘発投資が存在する場合とされています。誘発投資とは、総所得が増えると、投資が増えるというものです。
グラフでは、「貯蓄に関する「節約のパラドックス」について」で説明しています、数式で考えてみましょう。
節約のパラドックス
総所得を$Y$、限界貯蓄性向を$s$とすると、貯蓄$S$は、次のようになります。
$S = s Y \quad (0 \leq s \leq 1)$
次に、投資を$I$として、独立投資を$\bar{I}$、限界投資性向を$\beta$とすると、投資は、次のようになります。
$I = \bar{I} + \beta Y \quad (\beta > 0)$
総所得$Y$が大きいほど、投資$I$も大きくなる誘発投資が存在する投資関数となっています。
ここで、上記の貯蓄と投資に関する2式から、$Y$をキャンセルし整理すると、
$\beta S = s I \; – \; s \bar{I}$
となり、貯蓄と投資が均衡すると、$S = I$が成立するので、貯蓄について式を整理すると、
$S = \dfrac{s}{s \; – \; \beta}\bar{I}$
を得ることができます。
限界貯蓄性向の貯蓄への影響を見るため、この式について、$s$で微分すると、
$\dfrac{d S}{d s} = \dfrac{s \; – \; \beta \; – \; 1}{(s \; – \; \beta)^2} \bar{I}$
となります。
この式から、節約のパラドックスが生じる$d S / d s < 0$となるのは、
$s < \beta + 1$
となります。
ここで、$0 \leq s \leq 1$であり、$\beta > 0$なので、この条件は成立していることが分かります。
すなわち、誘発投資が存在すれば、節約のパラドックスが成立することになります。