はじめに
財政政策の基本的なものとして、減税と財政支出の2つが挙げられます。
前者は税金を安くするというものであり、後者はより政府がお金を多く使うというものです。
一見すると、政府がお金を何かに使うよりも、税金が安いほうがいいと思うかもしれません。ただ、政府のお金の使い方としては、公共事業に使うこともあれば、補助金をバラまくというやり方もあったりといろいろです。とりあえず、ここではお金の使い方は問わずに考えましょう。
このとき、国全体としては、減税と財政支出のどちらのほうが、経済効果があるかが気になるところです。
そこで、基本的なケインズのモデルを用いて、どちらのほうが経済効果があるかを説明します。
モデル
簡略化のため、所得を$ Y$、消費を$C$、政府支出を$G$とします(投資や輸出入は省略します)。
このとき、次のような式が成立します。
$ Y = C + G \quad \cdots \quad (1)$
次に、消費について、税金を$ T$、限界消費性向を$ c (0 \lt c \lt 1)$として、消費は所得から税金を差し引いた可処分所得に応じて、消費すると考えますと、
$ C = c (Y -T) \quad \cdots \quad (2)$
が成立します。
そして、上記の$ (1)(2)$式から、消費$ C$を消すと、次式が得られます。
$ \displaystyle Y = \dfrac{G – c T}{1 – c}$
更に、変化を考えるため、変数$ Y \, , \, G \, , \, T$について、全微分すると、
$ \displaystyle \Delta Y = \dfrac{\Delta G – c \Delta T}{1 – c} \quad \cdots \quad (3)$
となります。
ここで$ 1/(1-c)$が、いわゆる「乗数効果」になります。
財政政策の効果
上記の$ (3)$式をベースに、財政政策効果を見てみましょう。
政府支出
新たに財源$ E$を用意して、政府支出を行うとすると、
$ \Delta G = E \quad , \quad \Delta T = 0$
となり、$ (3)$式に当てはめると、
$ \displaystyle \Delta Y = \dfrac{E}{1 – c} \quad \cdots \quad (4)$
となります。
ここで、$ c$は$ 0 \lt c \lt 1$なので、
$ \displaystyle \dfrac{1}{1-c} \gt 1$
であることから、新たに財政支出を$ E$増やすと、$ 1/(1-c)$倍、所得が増えることになります。
減税
新たに財源$ E$を用意して、それを減税に使うとすると、
$ \Delta G = 0 \quad , \quad \Delta T = -E$
となり、$ (3)$式に当てはめると、
$ \displaystyle \Delta Y = \dfrac{cE}{1 – c} \quad \cdots \quad (5)$
となります。
比較
以上の$ (4)(5)$式から、政府支出した場合と減税した場合を比べると、$ 0 \lt c \lt 1$から、
$ \dfrac{E}{1 – c} \gt \dfrac{cE}{1 – c}$
となるので、政府支出をしたほうが、所得の増加が大きいことが分かります。
このように、基本的なケインズのモデルでは、減税よりも政府支出のほうが経済効果が高いといえます。
均衡予算の定理
なおここで、政府支出を増税で賄うとしましょう。
そうすると、
$ \Delta G = \Delta T$
が成立し、$ (3)$式に当てはめると、
$ \displaystyle \Delta Y = \Delta G$
となり、乗数効果は$ 1$となり、政府支出を増税で賄うと、政府支出を行った分だけしか、経済効果がないことになります。
これを、「均衡予算の定理」と言います。
最後に
基本的なケインズモデルでは、減税よりも政府支出をしたほうが経済効果が高いことが分かります。
なお、これはこれで1つの結論ですが、モデルが変われば、結論が変わってくる部分もあるので、注意が必要です。