はじめに
インフレ税とは、政府がインフレを引き起こすことによって、債務の実質的な価値を引き下げ、債務負担の軽減を図るというものです。
政府にとっては、財政状況が悪化すると、インフレ税の増収で、債務の負担を軽くしたいというインセンティブが働くことになります(なお、貨幣・紙幣を増刷するというインセンティブも考えられますあ、インフレ税とシニョリッジは同じになります)。
そうしたときに、インフレ率が上昇すればするほど、インフレ税も増えるのかという疑問が生じてきます。
そこで、理論的に、インフレ率とインフレ税の関係について、説明したいと思います。
インフレ率とインフレ税の関係
貨幣市場
貨幣供給量を$M$、物価水準を$P$とすると、貨幣供給の実質残高は、次のようになります。
$\dfrac{M}{P}$
他方、貨幣需要$L$については、実質利子率を$r$、インフレ率を$\pi$、総所得を$Y$とすると、貨幣需要関数は、次のようになります。
$L(r+ \pi \, , \, Y) \quad (L_1 <0 \, , \, L_2 > 0)$
実質利子率が増加すると貨幣需要は減少し、総所得が増加すると貨幣需要は増加すると仮定しています。
そして、貨幣市場において均衡しているとすると、
$\dfrac{M}{P} = L(r*+ \pi \, , \, Y^*) \quad \cdots \quad (1)$
が成立します(なお、均衡するように$r$や$Y$が決まるので、$r^* \, , \, Y^*$としています)。
インフレ税
インフレ税$T$は、貨幣の実質残高にインフレ率を掛けたものになるので、次のように表せます。
$T = \pi \dfrac{M}{P}$
この式に、$(1)$式を代入すると、
$T = \pi L(r*+ \pi \, , \, Y^*) \quad \cdots \quad (2)$
となります。
インフレ率の変化
$(2)$式を使って、インフレ率$\pi$が変化したとき、インフレ税$T$がどうなるかを見てみます。
$(2)$について、$pi$で微分すると、
$\dfrac{d T}{d \pi} = L(r*+ \pi \, , \, Y^*) + \pi L_1$
であり、$L_1 <0$なので、$L$と$L_1$の大小で、この影響が変わってきます。
それぞれの大小を場合分けして見てみると、
$L > \pi L_1$のとき、インフレ率が上昇すると、インフレ税も増える
$L = \pi L_1$のとき、インフレ率が上下しても、インフレ税は変わらない
$L < \pi L_1$のとき、インフレ率が上昇すると、インフレ税は減少する
となります。
貨幣需要関数の特定化
結論としては、上記の通りなのですが、直観としては分かりにくいので、貨幣需要関数を特定化し、$(1)$式が次のようになっている場合を考えます。
$\dfrac{M}{P} = e^{a – n(r*+ \pi)} Y^*$
$a$と$n$は定数ですが、$n$は金利感応度を表しています。
この式から、$(2)$式は、
$T = \pi e^{a – n(r*+ \pi)} Y^*$
となり、$\pi$で微分すると、
$\dfrac{d T}{d \pi} = e^{a – n(r*+ \pi)} Y^* \; – \; n \pi e^{a – n(r*+ \pi)} Y^*$
であり、式変形すると、
$\dfrac{d T}{d \pi} = (1 \; – \; n \pi) e^{a – n(r*+ \pi)} Y^*$
となります。
そしてこの式から、
$\pi < \dfrac{1}{n}$のとき、$\dfrac{d T}{d \pi} > 0$であり、インフレ率が上昇すると、インフレ税も増える
$\pi = \dfrac{1}{n}$のとき、$\dfrac{d T}{d \pi} = 0$であり、インフレ率が上下しても、インフレ税は変わらない
$\pi > \dfrac{1}{n}$のとき、$\dfrac{d T}{d \pi} < 0$であり、インフレ率が上昇すると、インフレ税は減少する
であることが分かります。
すなわち、インフレ率が低いときには、インフレ率が上昇するとインフレ税も増えますが、逆に、インフレ率が高い状態で更にインフレ率が上昇すると、インフレ税は減少してしまうことになります。
参考
デビッド・ローマー『上級マクロ経済学』