はじめに
マクロ経済学において、労働市場がどうなのかについて、論じられます。
企業は生産を行うため、労働力を需要し、家計は賃金を得るため、労働力を供給します。
そして、労働力に対する需要と供給が一致するところで、労働市場は均衡します。
ある意味、当たり前と言えますが、改めて、企業と家計の行動を整理し、このことについて、説明します。
労働市場
企業
企業は、労働力$L_D$を用いて、生産関数$f(L_D)\ , (f’>0 \, , \, f^{“}<0)$のもと、財の生産を行うとします。
財の価格を$p$、名目賃金を$w$とすると、企業が直面する利潤関数は、次のようになります。
$\pi = p f(L_D) \; – \; w L_D$
そして、企業が利潤最大化を行うとすると、
$f'(L_D) = \dfrac{w}{p}$
が一階条件となります。
$w/p$は実質賃金を表すので、この結果から、企業は、限界生産力と実質賃金に等しくなるように、労働力を需要することになります。
ところで、この一階条件から、実質賃金$w/p$と労働需要$L_D$の関係を考えましょう。実質賃金が上昇したときには、一階条件を満たすには、$f'(L_D)$が大きくならなければなりません。ただ、生産関数は収穫逓減するので、$f'(L_D)$を大きくするには、$L_D$が小さくなる必要があります。
すなわち、
実質賃金↑ ⇒ 労働需要↓
実質賃金↓ ⇒ 労働需要↑
となり、横軸に労働需要、縦軸に実質賃金というグラフを考えたとき、右下がりの曲線になります。
家計
家計は、労働して賃金を得る時間$L_S$と、それ以外の余暇$l$を楽しむ時間があるとします。家計のすべての時間を$T$とすると、
$T = L_S + l$
となります。すなわち、家計は、働いて賃金を得るか、余暇を楽しむかの選択に迫られていることになります。
このとき、家計は、働いて賃金を得て、財$c$の消費を行うとすると、家計の予算制約式は、
$w L_S = p c$
そして、財を$c$とし、効用関数を$u(c \, , \, l)$とすると、家計は、次のような問題に直面することになります。。
$\displaystyle \max_{c , l} u(c \, , \, l)$
$s.t. w L_S = p c \quad , \quad T = L_S + l$
これを解くと、
$\dfrac{u_2}{u_1} = \dfrac{w}{p}$
が一階条件となります。
企業と同様に、実質賃金$w/p$に応じて、消費や余暇の水準を決定することになります。
このとき、実質賃金が上昇したときには、左辺の$u_2 / u_1$も大きくなる必要があります。効用関数は、消費・余暇いずれにおいても、低減するので、実質賃金が上昇したときには、消費を増やし、余暇を減らして労働供給を増やすことになります。
すなわち、
実質賃金↑ ⇒ 労働供給↑
実質賃金↓ ⇒ 労働供給↓
となり、横軸に労働供給、縦軸に実質賃金というグラフを考えたとき、右上がりの曲線になります。
労働市場均衡
以上から、横軸に労働力、縦軸に実質賃金としたとき、下図のように、労働需要曲線と労働供給曲線を描くことができます。
労働需要と労働供給が一致するところで、労働力$L^*$と実質賃金$(w/p)^*$が決定することになります。
失業
しかし、短期的には、価格や名目賃金が伸縮的ではなく、固定的になると考えられます。
均衡するような実質賃金よりも高い水準で、実質賃金が定まっていたときの様子を図にしたのが、下のものです。
このときには、労働市場で需給ギャップが生じ、図のように、労働供給としては$L_S$がありますが、労働需要は$L_D$しかなく、$L_S \; – \; L_D$だけ、失業が発生することになります。
参考
齊藤誠・岩本康志・太田聰一・柴田章久『マクロ経済学』
鴇田忠彦・藪下史郎・足立英之『初級・マクロ経済学』