概要
経済学において、式の導出過程で、例えば、
$ \ln (1 + r) \simeq r$
というような話がいきなり出てきたりします。
グラフで見たい方は、対数の近似式 ln(1+x)=xをグラフで見てみる
$ r$ が $ 0$ に近いということは、$ r$ の値がむちゃくちゃ小さいということだから、何となく成立するだろうなと思ったりもして、それ以上、深く考えずに受け入れたり、その考えを知らずに単に暗記したりしていることがあるかと思います。
実際に計算してみて、$ 0.02$ の場合、$ r=0.02$ で $ (1+r)= 0.0198$ などとなり、やっぱり似たような数字になるなと、何となくわかった気がしたりもします。
ただ、この式には、級数展開の考えがあるので、この意味合いを覚えておきましょう。
対数の級数展開
上記の式の背景には、対数に関する級数展開について、$ -1 \lt x \leq 1$ に対して、
$ \ln(1+x) = x \; – \; \dfrac{x^2}{2} + \dfrac{x^3}{3} \; – \; \dfrac{x^4}{4} + \cdots$
という公式がまず前提としてあります。
(参考)
この公式は、マクローリン展開すれば、得ることができます。
マクローリン展開の公式は、次のようなものです。$ f(x) = f(0) + f'(0) \dfrac{x}{1!} + f^”(0) \dfrac{x^2}{2!} + f^{(3)}(0) \dfrac{x^3}{3!} + \cdots$
ここで、$ f(x) = \ln(1+x)$の場合を考えましょう。
$ \ln 1 = 0$であることを注意すると、$ f(0) = \ln 1 = 0$
$ f'(x) = (1 + x)^{-1}$なので、$ x=0$のときには、$ f'(0) = (1)^{-1} = 1$
$ f^”(x) = – (1 + x)^{-2}$なので、$ x=0$のときには、$ f^”(0) = – (1)^{-2} = -1$
$ f^{(3)}(x) = 2 (1 + x)^{-3}$なので、$ x=0$のときには、$ f^{(3)}(0) = 2 (1)^{-3} = 2$
などが得られるので、上記のマクローリン展開の式に代入すると、対数に関する級数展開の公式を導出できます。
この式において、右辺第2項 $ x^2/2$ 以下は、$ -1 \lt x \leq 1$ であるから、非常に小さい値になるので、$ x^2/2$ 以下を切り捨てて、
$ \ln (1 + x) \simeq x$
という近似式を使っていることになります。
実際に例えば、$ x=0.02$ とした場合、$ x^2/2=0.0002$ となり、むちゃくちゃ小さい値になります。更に、$ x^3/3 = 0.0000027$ と一層小さくなります。
ですので、切り捨てても全く問題はないということで、上記のような近似式になるということです。
アレンジ
ちょっとアレンジして、次のような式の近似を考えてみましょう。
$ \ln x \; – \; \ln y$
この式は、$ \ln (x/y)$ ですので、上記の近似式を使うと、
$ \ln x \; – \; \ln y \simeq \dfrac{x}{y} \; – \; 1$
となり、更に変形すると、
$ \ln x \; – \; \ln y \simeq = \dfrac{x \; – \; y}{y}$
が得られます。
なお、この式を時間で考えて、$ x = x_{t+1} \, , \, y = x_t$ とすると、
$ \ln x_{t+1} \; – \; \ln x_t \simeq \dfrac{x_{t+1} \; – \; x_t}{x_t}$
となります。右辺の式は、$ t+1$ 期における増加率・成長率を表すので、 増加率・成長率は、$ \ln x_{t+1} – \ln x_t$ で近似できるということでもあります。
おまけ
上記の近似式にあたっては、対数の級数展開を使いました。
他にも、例えば、指数について、
$ e^x = 1 + \dfrac{x}{1!} + \dfrac{x^2}{2!} + \dfrac{x^3}{3!} + \cdots$
といったものもあります。
このように級数展開については、いくつも式があるのですが、あまり覚えていても使うことはないように思ってます。
ただ、経済学的には、マクローリン級数とテイラー級数あたりは知っておいたらいいのではと思ったりもします。
(なお、上記の近似式を使ったものとして、「フィッシャー方程式の導出方法・解き方を説明(数式あり)!」があります。ご参考に)