はじめに
産業連関表において、非負解をもつための必要十分条件として、ホーキンス・サイモンの条件が求められます。
ホーキンス・サイモンの条件とは、投入係数行列を$\textbf{A}$とすると、$\textbf{I} \; – \; \textbf{A}$のすべての首座小行列式が正であることであり、$a_{ij}$とすると、
$\begin{vmatrix}
1 \; – \; a_{11} & – \; a_{12} & \cdots & – \; a_{1n}\\
– \; a_{21} & 1 \; 1 \; – \; a_{22} & \cdots & – \; a_{2n}\\
\vdots & \vdots & \ddots & \vdots\\
– \; a_{n1} & – \; a_{n2} & \cdots &1 \; – \; a_{2n}
\end{vmatrix} > 0 \quad \cdots \quad (1)$
というものです。
ところで、このホーキンス・サイモンの条件を簡略化するものとして、ソローの条件があります。
ソローの条件
ソローの条件とは、次が満たされていれば、$(1)$式が満たされるというものです(十分条件)。
$\displaystyle \sum_{i=1}^n a_{ij} < 1 \quad (j= 1 \, , \, 2 \, , \cdots , \, n) \quad \cdots \quad (2)$
簡単に言えば、投入行列表について、縦方向に足し合わせたものが1より小さいことを求めているものです。
通常の産業連関表のモデルでは、投入係数を足し合わせ、付加価値率$v_i$を加えると、
$\displaystyle \sum_{i=1}^n a_{ij} + v_i = 1 \quad (j= 1 \, , \, 2 \, , \cdots , \, n)$
というように、1になるので、ソロー条件は満たされています。
すなわち、通常の産業連関表のモデルでは、ソロー条件が満たされており、ホーキンス・サイモンの条件も満たすことになります。
それゆえ、通常の産業連関表のモデルは、ホーキンス・サイモンの条件が満たされているかどうかは、考えなくても済むということです。
なぜ、ホーキンス・サイモンの条件を満たすことになるのか
ところで、ソロー条件を満たしたとき、なぜ、ホーキンス・サイモンの条件を満たすことになるのか、2部門の場合で見てみます。
$(1)(2)$式より、ホーキンス・サイモンの条件、ソローの条件は、それぞれ次のようになります。
(ホーキンス・サイモンの条件)
$\begin{vmatrix}
1 \; – \; a_{11} & – \; a_{12}\\
– \; a_{21} & 1 \; – \; a_{22}
\end{vmatrix} > 0$
なお、行列式ではなく、展開式で表すと、
$(1 \; – \; a_{11})(1 \; – \; a_{22}) + a_{12}a_{21} >0 \quad \cdots \quad (3)$
(ソローの条件)
$\begin{equation}
\begin{alignedat}{2}
a_{11} + a_{21} < 1 \\
a_{12} + a_{22} < 1
\end{alignedat}
\end{equation}$
このとき、ソローの条件から、
$\begin{equation}
\begin{alignedat}{2}
1 \; – \; a_{11} > a_{21} \geq 0 \\
1 \; – \; a_{22} > a_{12} \geq 0
\end{alignedat}
\end{equation}$
から、$(3)$式の左辺第1項は左辺第2項よりも大きく、ホーキンス・サイモンの条件を満たしていることが分かります。
参考
宮沢健一『産業連関分析入門』