フィッシャー方程式
本投稿を読まれる方は、フィッシャー方程式について、すでにご存じだと思います。
ただ念のため、説明しておきますと、フィッシャー方程式とは、
名目金利 = 実質金利 + 期待インフレ率
という関係式です。
(なお、「フィッシャー方程式について解説します」で、そもそもの式について、説明しています)
何となく元々あるような関係式ですが、しっかりとした導出方法があります。
導出方法
まずは、名目金利、実質金利、物価について、それぞれ次のように表すことにしましょう。
$ r_t$ : $ t$ 期の実質金利、$ i_t$ : $ t$ 期の名目金利、$ P_t$ : $ t$ 期の物価
$ t$ 期において、預金した場合、$ 1+i_t$ の名目金利からの利益を得ることができます。
しかし、預金額は物価の影響を受けるため、物価の影響を考えて、その利益を考える必要があります。例えば、名目金利から500円の利益を得ても、物価が現在から倍になれば、その500円の価値は実質的には250円になるからです。
そこで、名目金利( $ i_t$ )を踏まえ、物価を考慮した利益は、次式のような実質金利( $ r_t$ )で表すことができます。
$ 1 + r_t = \dfrac{(1 + i_t)P_t}{P_{t+1}} $
ここで、$ P_t/P_{t+1}$ は、物価水準を表します。物価が上昇し、1期後の $ P_{t+1}$ が現在の $ P_t$ よりも大きければ、名目金利( $ i_t$ )の価値は下がり、逆に1期後の $ P_{t+1}$ が現在の $ P_t$ よりも小さければ、名目金利( $ i_t$ )の価値は上がることになります。
ただ、未来の $ t+1$ 期のことは $ t$ 期では分かりません。そこで、予想・期待ということで、$ t+1$ 期の物価を $ P^e_{t+1}$ と表すと、次のような式になります( $ P_{t+1}$ の右上に「 $ e$ 」が付いていることに注意してください)。
$ 1 + r_t = \dfrac{(1 + i_t)P_t}{P^e_{t+1}} \qquad \cdots \qquad (1)$
この式を対数化すると、次の式が得られます。
$ \ln(1 + r_t) = \ln(1 + i_t) – [ \ln(P^e_{t+1} – \ln(P_t) ]$
ここで、数学的に $ (\ln x_{+1} – \ln x ) \approx (x_{+1} – x)/x$ 、$ \ln (1+x) \approx x$ という公式を用いると、次のように変形することができます(なお、ここで近似を用いるというのが、1つの大きなポイントです。これらの考えが気になるようでしたら、「対数の近似式について」をご覧ください)。
$ r_t = i_t – \dfrac{P^e_{t+1} – P_t}{P_t} \qquad \cdots \qquad (2)$
そして、右辺の$ (P^e_{t+1} – P_t)/P_t$ は期待インフレ率を表すので、次のような意味となります。
実質金利 = 名目金利 – 期待インフレ率
上記のフィッシャー方程式は、この式を変形し、名目金利を左辺にもってきたものであることが分かります。
(なお、この式をフィッシャー方程式としていることもあります)
数値例
最後に、$ (1)$ 式と $ (2)$ 式について、数値例で考えてみましょう。
名目金利 $ 5\%$ を、現在の物価水準を $ 100$ 、1年後の予想物価水準を $ 103$ とします。
このとき、次のような結果になります。
$ (1)$ 式 … $ r_t = \dfrac{(1 + i_t)P_t}{P^e_{t+1}} – 1 = \dfrac{(1+0.05)\times 100}{103} -1 = 0.019$
$ (2)$ 式 … $ r_t = i_t – \dfrac{P^e_{t+1} – P_t}{P_t} = 0.05 – \dfrac{103 – 100}{100} = 0.02$
上記の導出で分かるように、途中で近似しているため、若干の誤差が生じています。
参考
齊藤誠・岩本康志・太田聰一・柴田章久『マクロ経済学』