概要
バラッサ=サミュエルソン理論(バラッサ=サミュエルソン効果)とは、
「貿易財の生産性上昇があるとき、名目為替レートに対して、購買力平価は過小評価される」
というものです。
購買力平価は、直観的に分かりやすい為替理論ですが、非貿易財があるときには、購買力平価と名目為替レートの間で乖離が予想されますが、バラッサ=サミュエルソン理論はこの乖離を説明する理論となっています。
また、貿易財の生産性が低いときには、他国よりも自国の物価は低くなることから、途上国の物価の低さを説明する理論ともなっています。
バラッサ=サミュエルソン理論
ある国において、貿易財部門と非貿易財部門があるとします。
それぞれの部門は労働力$L_T \, , \, L_N$のみを用いて、次のような生産関数のもと、
$Y_T = A_T L_T \quad , \quad Y_N = A_N L_N$
財$Y_T \, , \, Y_N$を生産します。なおここで、$A_T \, , \, A_N$は貿易財部門と非貿易財部門の生産性パラメーターです。
このとき、貿易財部門と非貿易財部門の財の価格を$p_T \, , \, p_N$、賃金を$w$とすると、それぞれの部門は利潤最大化から、
$p_T = \dfrac{w}{A_T} \quad , \quad p_N = \dfrac{w}{A_N} \quad \cdots \quad (1)$
となります。なお、貿易財部門と非貿易財部門で賃金が異なっても労働移動が起きるため、両部門で賃金$w$は均等化するため、同じ賃金になっています。
ただ、貿易財の価格$p_T$は貿易で決定されるため、外国財の価格を$P^*$、名目為替レートを$\epsilon$とすると、
$p_T = \epsilon P^* \quad \cdots \quad (2)$
となります。
そして、この国全体の物価$P$は、物価バスケットを考慮すると、次のようになります。
$P = \theta p_T + (1 \; – \; \theta) p_N \quad \cdots \quad (3)$
ここで、(絶対的)購買力平価を$\tilde{\epsilon}$とすると、
$\tilde{\epsilon} = \dfrac{P}{P^*}$
であり、$(1)$~$(3)$式を用いて、解いていきます。
$(2)(3)$式から、
$\tilde{\epsilon} = \dfrac{P}{P^*} = \dfrac{\theta p_T + (1 \; – \; \theta) p_N}{p_T / \epsilon}$
$\displaystyle = \left( \theta + (1 \; – \; \theta) \dfrac{p_N}{p_T} \right) \epsilon$
となります。
更に、$(1)$式を代入すると、
$\displaystyle \tilde{\epsilon} = \left( \theta + (1 \; – \; \theta) \dfrac{w / A_N}{w / A_T} \right) \epsilon$
から、
$\displaystyle \tilde{\epsilon} = \left( \theta + (1 \; – \; \theta) \dfrac{A_T}{A_N} \right) \epsilon \quad \cdots \quad (4)$
となります。
$(4)$式を見ると、名目為替レート$\epsilon$に係数がついており、この係数が購買力平価$\tilde{\epsilon}$との乖離を示しています。
特に、貿易財部門と非貿易財部門の生産性の比である$A_T / A_N$が大きいほど、$\tilde{\epsilon} > \epsilon$となることが分かります。すなわち、貿易財部門の生産性が非貿易財部門の生産性よりも大きいときには、購買力平価のほうが大きく、名目為替レートに対して、その評価は低くなります(為替レートなので、値が大きいほど、減価していることに注意)。
以上から、
貿易財部門の生産性が高い($A_T / A_N > 1$) ⇒ 購買力平価は過小評価($\tilde{\epsilon} > \epsilon$)
両部門の生産性が等しい($A_T / A_N = 1$) ⇒ 名目為替レートと購買力平価が一致($\tilde{\epsilon} = \epsilon$)
非貿易財部門の生産性が高い($A_T / A_N < 1$) ⇒ 購買力平価は過大評価($\tilde{\epsilon} < \epsilon$)
となります。
なお、上記は絶対的購買力平価での話ですが、同様に相対的購買力平価でも成立します。
参考
小川英治・岡野衛士『国際金融』
藤井英次『コア・テキスト国際金融論』