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産業政策の1つである特別償却制度について

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投稿経済史初級
産業政策の1つとして、古くからおこなわれている特別償却について説明します。
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はじめに

 日本の産業政策を語る上で欠かせないものとして、特別償却があります。

 この効果については、是非はあるものの現在でも行われている政策手法の1つです。

 ですので、産業政策や中小企業政策、そして経済史を学ぶ上でも、特別償却は大事なものです。

そもそも特別償却って何?

概要

 特別償却とは、一言でいえば、

 「通常認められているよりも、多くの減価償却費を早く計上できる」

という制度です(早く計上できるため、「加速償却」とも言ったりもします)。

 これでは何のことかわからないので、1つ1つ説明していきましょう。

減価償却費

 減価償却費とは、設備などを導入したときに、一度に費用とするのではなく、一定期間に分けて、費用計上するという会計上の仕組みです。
 その趣旨としては、設備などは長く使用するため、設備を導入したときだけ費用とするのはおかしいため、その設備が使われる期間に分けて、費用としていったほうがいいというものです。

 例えば、5年間使用できる100万円の機械を導入した場合に、導入した年に100万円を費用とするのではなく、5年間にわたり毎年20万円(=100万円÷5年間)を費用としていったほうがいいということです。

 そして、この減価償却費は、各企業が自由に設定できるのではなく、税法上で決まった形でしか、費用としては計上できません(計上してもいいのですが、税法上は、超過分は費用として認められません)。

特別償却

 ここで登場するのが、特別償却です。
 通常でしたら、毎年決まった額でしか減価償却費は計上できませんが、通常よりも、早い時期に多く減価償却費を計上できるというのが、特別償却になります。

 例えば、上記の例でいえば、100万円の機械を導入したとき、通常は20万円しか毎年減価償却費を計上できないというところを、特別償却では、2年間で毎年50万円の減価償却費を認めるということなります。

1年後2年後3年後4年後5年後
通常20万円20万円20万円20万円20万円
特別償却100万円100万円0万円0万円0万円


※特別償却について、もっと知りたい方は「特別償却について、数値例で説明します。」も見てください

効果

 期間は異なるものの、計上できる減価償却費について、総額は変わらないので、減税の効果はありません。

 しかし、早い時期に減価償却費を多く計上できることで、早い時期には支払う税金は少なくなります(逆に、後の時期には多めに税金を支払うことになります)
 つまり、この特別償却には、
 
  ・税金の後払い
  ・これに伴う金融効果(早い時期に多くの資金を用意する必要がなくなる)

を得られることになります。

 特に、設備を導入したときには、その資金が必要な上、税金もかかるとなると大変です。しかし、この特別償却を使えば、その税金について、当初は少なく済むので、設備導入にあたって用意する資金は少なくて済むことになります。そして、設備を導入し、増えた利益で、後から税金を多く払えばいいということが可能になります。

 言い換えれば、通常ならば、金融機関からの有利子の借入で対応しなければならないところを、この制度を使うことで、無利子で対応できることになります(この意味で、利子分の補助金的な効果があったともいえます)。

産業政策としての特別償却

創設

 産業政策としては、1951年に、重要機械などの割増償却制度として、創設されたとされています。

 当時は、戦後6年後ということで、企業には戦前・戦中に導入された老朽化した設備が多く残っていました。このような機械では、生産性をあげることは難しく、国際競争力のないのですが、企業にとっては資金がかかることから容易ではありません。

 そこで、特別償却という制度を導入することで、政府としては、実質的な無利子の融資を行い、設備の更新を促したわけです。
 具体的には、政府が指定した設備について、3年間の特別償却(普通償却の5割増)を認めました。

企業合理化促進法

 更に、1952年度には、企業合理化促進法に基づいて、合理化機械などについては、初年度に2分の1償却が開始されました。

 特に当時においては、日本はキャッチアップの時期であり、設備の更新が収益率の向上につながりやすかったこともあり、上記のような金融効果に加えて、

  ・期待収益率の向上
  ・収益率の向上に伴う投資回収の短縮化
  ・投資回収の短縮化に伴うリスク低減

があったとされます。

 つまり、投資(設備更新)を行えば、収益が向上することが読めている中、資金制約があり、投資ができなかった企業に対して、行われた政策と言えるでしょう。

 そしてこの法律は、鉄鋼・非鉄金属・石油・自動車・工作機械・電気通信機械などの重化学工業の主要部門に適用され、これらの産業の高度化に資したとされています。

現在

 この制度は、1950年代~1970年代に、主として機能した制度と言えるかもしれませんが、現在でもこのような制度は行われています。

 例えば、中小企業等経営強化法による経営力向上計画の認定を受ければ、その設備については、即時償却(投資した事業年度に全額を費用とすることができる)が可能になります。

   中小企業庁「経営サポート「経営強化法による支援」

 とはいえ、かつては融資を受けることも難しく、金利も高かったときに比べれば、現在はこの制度の効果は薄れているといえるかもしれません。

 上記のように、この制度のポイントは、税金の後払いであり、それに伴う(税金分の)無利子の融資ということです。
 しかし、内部留保や手元資金が多い企業にとっては、そもそも融資を受ける予定がないため、無利子かどうかはどうでもいい話です。また、融資により対応しなければならないとしても、現在は低金利時代です。

 例えば、1000万円の機械を導入するとしましょう。かつては金利が10%だったとして、現在は1%とします。そして、実効税率を40%とすれば、次のようになります。

  かつて … 1000万円 × 税率40% × 金利10% = 40万円
  現 在 … 1000万円 × 税率40% × 金利 1% = 4万円

 つまり、特別償却による無利子という経済効果について、かつては40万円分の金利節約効果があったわけですが、現在は4万円の節約効果しかないことになります。

 これは仮説的な数字例ですが、このように経済効果が薄まっていることは、間違いないといえるでしょう。

おまけ

 このような税制優遇措置が、実際に有効であるかどうかは、政策・学術的に重要なので、実証研究が行われていたりします。
 例えば、次の研究では、税制優遇措置が設備比率を増やしたとはいえないが、設備の更新を後押ししたという効果を見出しています。

   RIETI「中小企業向け設備投資税制の因果効果

参考

  橋本寿朗 他『現代日本経済

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