はじめに
ある産業において、規模の経済があるときに、自然独占が生じるとされます。
例えば、費用についていえば、規模の経済があれば、財・サービスを生産すればするほど、費用が逓減するので、小さな企業が多く生産するより、1つの企業でまとめて生産したほうが、平均費用は低下するからです。
ただこれは、企業が1つの財・サービスを生産している場合の話です。企業が複数の財・サービスを生産しているときには、どうなるかという点で、重要な概念が「費用の劣加法性」です。
費用の劣加法性
$n$個の複数の財$x_i$があるとして、費用関数を$C$とすると、次の条件を満たすとき、費用の劣加法性があり、自然独占が生じるとされます。
$\displaystyle C( \sum_{i=1}^n x_i) < \sum_{i=1}^n C(x_i)$ ちょっと分かりにくいので、$n=3$のときには、 $C(x_1 + x_2 + x_3) < C(x_1) + C(x_2) + C(x_3)$が成立しているとき、費用の劣加法性があるとされます。 式から分かるように、複数の財を個別に生産するよりも、1つの企業がまとめて生産したほうが費用が低い状態であり、独占が生じることになるでしょう。 なお、このような経済を「範囲の経済」とも言います。
規模の経済と費用の劣加法性
企業が1つの財・サービスのみを生産している場合には、規模の経済があれば、自然独占が生じるとされます。
また、複数の財・サービスを生産している場合でも、費用の劣加法性を満たしていれば、その定義から、規模の経済が働いており、自然独占が生じます。
しかし、規模の経済があっても、必ずしも費用の劣加法性を満たさず、自然独占が生じるとは限りません。
次のような費用関数を考えましょう。
$C(x \, , \, y) = \sqrt{x} + \sqrt{y} + \sqrt{x y}$
この場合に、$x$について考えると、次のようにこの費用関数は逓減的であることが分かります($y$についても同様)。
$C_x = \dfrac{1}{2}(1 + y^{1/2}) x^{-1/2} > 0$
$C_{xx} = – \dfrac{1}{4}(1 + y^{1/2}) x^{-3/2} < 0$ ただ、この費用関数については、 $C(x \, , \, y) = \sqrt{x} + \sqrt{y} + \sqrt{x y} > \sqrt{x} + \sqrt{y} = C(x) + C(y)$
であり、費用の劣加法性の条件を満たしていないことが分かります。
以上から、規模の経済と費用の劣加法性の関係は、次のようになります。
費用の劣加法性 → 規模の経済
規模の経済 ↛ 費用の劣加法性
参考
清野一治『規制と競争の経済学』
永井進ほか『』