はじめに
マクロ経済学における成長理論において、ラムゼーの最適成長モデルは、基本的なモデルと言ってもいいと思います。
そして解法においては、ラグランジュ乗数法を用いるなど、いくつかのものがありますが、ハミルトニアンを用いた場合について、解説したいと思います。
ラムゼーの最適成長モデル
生産
$ t$期の生産量を$ Y_t$とし、資本$ K_t$と人口$ N_t$を用いて、生産します。
$Y_t = F(K_t \, , \, N_t) \quad \cdots \quad (1)$
この生産量を消費$ C_t$に回すか、貯蓄するかのいずれかを行います。ここで、貯蓄はすべて投資に使われるとし、投資は$ dK_t/dt$と表せる(投資は時間に対する限界的な資本増加と表せる)ので、
$\displaystyle Y_t = C_t + \dfrac{dK_t}{dt} \quad \cdots \quad (2)$
となり、$ (1)(2)$式を用いると、
$ F(K_t \, , \, N_t) = C_t + \dfrac{dK_t}{dt} \quad \cdots \quad (3)$
が得られます。
1人当たりで考えるため、1人当たりの資本を$ k_t$、1人当たりの消費を$ c_t$とし、生産関数は$ F(K_t \, , \, N_t)$は1次同次と仮定すると、$ (3)$式は、
$ F(k_t \, , \, 1) = c_t + \dfrac{dK_t}{N dt} \quad \cdots \quad (4)$
となります。$ (4)$式の右辺第2項を整理するため、1人当たり資本$ k_t$の増加を考え、
$dk = dK_t N^{-1} \; – \; dN_t K$
であることから、式変形すると、
$dK_t = N_t dk + d N_t K_t N_t \quad \cdots \quad (5)$
が得られます。ここで、人口増加率を
$\displaystyle n = \dfrac{dN_t/dt}{N_t}$
とし、生産関数を$ F(K_t \, , \, N_t) = f(k_t)$と定義します。そうすると、$ (5)$式を用いて、$ (4)$式を変形すると、
$\displaystyle f(k_t) = c_t + \dfrac{dk_t}{dt} + n k_t \quad \cdots \quad (6)$
が得られます。
なお、境界条件を設定するため、生産関数$ f(k_t)$は、稲田条件に従っているとします。
$f(0) = 0 \quad , \quad f'(k_t)\gt0 \quad , \quad f'(0)=\infty \quad , \quad f'(\infty)=0$
家計
各期の効用を$ u(c_t)$とし、$ \rho$を時間選好率とすると、全期間の効用$ U$は、次のようになります。
$\displaystyle U = \int^{\infty}_0 u(c_t) exp(-\rho t) dt \quad \cdots \quad (7)$
最適化問題
以上を求めると、$ (6)(7)$式から、次のような最適化問題を解くことになります。
$\max \, \displaystyle U = \int^{\infty}_0 u(c_t) exp(-\rho t) dt \quad \cdots \quad (8)$
$s.t. \, \displaystyle \dfrac{dk_t}{dt} = f(k_t) – c_t – n k_t$
そして、共役変数を$ \mu_t$とし、ハミルトン関数$H_t$を用いると、
$H_t = u(c_t) exp(-\rho t) + \mu_t (f(k_t) – c_t – n k_t) \quad \cdots \quad (9)$
を解くことになります。
ここで、$exp(-\rho t)$の取り扱いが厄介なので、
$\lambda_t = \mu_t exp(\rho t) \quad (10)$
と定義すると、$ (9)$式は、
$H_t = [u(c_t) + \lambda_t (f(k_t) \; – \; c_t \; – \; n k_t)] exp(-\rho t) \quad \cdots \quad (11)$
となります($ exp(-\rho t)$が[]の外に出ていることに注意)。
最適化条件
$(9)$式から、最適化の条件としては、次の3つのようになります。
$\displaystyle \dfrac{dH_t}{dc_t} = 0 \quad \cdots \quad (12)$
$\displaystyle \dfrac{d \mu_t}{dt} = \; – \; \dfrac{dH_t}{dk_t} \quad \cdots \quad (13)$
$\displaystyle \lim_{t \rightarrow \infty} k_t \mu_t = 0 \quad \cdots \quad (14)$
ここで、$(10)$式において、
$\displaystyle \dfrac{d \lambda_t}{dt} = \dfrac{d \mu_t}{dt} exp(\rho t) + \rho \mu_t exp(\rho t) = \dfrac{d \mu_t}{dt} exp(\rho t) + \rho \lambda \quad \cdots \quad (15)$
が成立していることに注意し、$ (12)(13)(14)$を解くと、
$\displaystyle u'(c_t) = \lambda_t \quad \cdots \quad (16)$
$\displaystyle \dfrac{d \lambda_t}{dt} = \lambda_t [ \rho + n – f'(k_t)] \quad \cdots \quad (17)$
$\displaystyle \lim_{t \rightarrow \infty} k_t u'(c_t) exp(-\rho t) = 0 \quad \cdots \quad (18)$
が得られます。
(16)式の導出方法
$ (12)$式から、$dH_t/dc_t = 0$であり、$ (11)$式を$ c_t$で微分すれば得られます。
(17)式の導出方法
$(15)$式から、$\displaystyle \dfrac{d \lambda_t}{dt} = \dfrac{d \mu_t}{dt} exp(\rho t) + \rho \lambda$
であり、$ (13)$式を代入すると、
$ \displaystyle \dfrac{d \lambda_t}{dt} = \; – \; \dfrac{dH_t}{dk_t} exp(\rho t) + \rho \lambda$
となります。
ここで、$(11)$式を$ k_t$で微分すると、
$\dfrac{dH_t}{dk_t} = \lambda_t (f'(k_t) \; – \; n) exp(-\rho t)$
が得られるので、上記の式に代入すると、
$\displaystyle \dfrac{d \lambda_t}{dt} = \; – \; \lambda_t (f'(k_t) \; – \; n) exp(-\rho t) exp(\rho t) + \rho \lambda$
であり、整理すると、
$\displaystyle \dfrac{d \lambda_t}{dt} = \lambda_t ( \rho + n \; – \; f'(k_t))$
が得られます。
(18)式の導出方法
$(14)$式において、$\displaystyle \lim_{t \rightarrow \infty} k_t \mu_t = 0$
であり、$(10)$式の$ \mu_t = \lambda_t exp(-\rho t)$を使うと、
$\displaystyle \lim_{t \rightarrow \infty} k_t \lambda_t exp(-\rho t) = 0$
となり、$(16)$式の$ u'(c_t) = \lambda_t$を用いると、$(18)$式が得られます。
更に、$(17)(18)$式より、$\lambda_t$をキャンセルすると、
$\displaystyle \dfrac{du'(c_t)/dt}{u'(c_t)} = \rho + n \; – \; f'(k_t) \quad \cdots \quad (19)$
が得られます。
ダイナミズム
最適化条件から、$c_t$と$k_t$がどのように変化するかを見てみましょう。
まずは、$c_t$について考えるとして、$(19)$式は、
$\displaystyle \dfrac{c_t u^”(c_t)}{u'(c_t)} \dfrac{d c_t / dt}{c_t} = \rho + n \; – \; f'(k_t) \quad \cdots \quad (20)$
となります。
ここで、異時点間における代替の弾力性を$\sigma$とすると、
$\sigma = \; – \; \dfrac{u^”(c_t) c_t}{u'(c_t)}$
なので、$(20)$式は、
$\displaystyle \dfrac{d c_t / dt}{c_t} = \dfrac{f'(k_t) \; – \; \rho \; – \; n}{\sigma} \quad \cdots \quad (21)$
となります。
他方、$(6)$式から、
$\displaystyle \dfrac{dk_t}{dt} = f(k_t) \; – \; c_t \; – \; n k_t \quad \cdots \quad (22)$
であり、$(21)(22)$式の2本の方程式で、$c_t$と$k_t$が動くことになります。
定常状態
定常状態における1人当たりの消費を$ c^*$、資本を$ k^*$とすると、定常状態では$\lambda_t/dt = 0$となるので、$(17)$式から、
$f'(k^*) = \rho + n$
となり、定常状態では、限界生産力は、時間選好率と人口増加率の合計に等しくなります。
また、$ (6)$式を用いて、$ dk_t/dt =0$に注意すると、
$ c^* = f(k^*) \; – \; n k^*$
と、消費水準も決定します。
参考
Olivier Blanchard, Stanley Fischer『Lectures on Macroeconomics』