社会的厚生関数
社会にはいろいろな個人が所属していますが、その社会の一部の個人だけが幸せな状態は、社会全体として望ましいとは言えないでしょう。
社会全体として、各個人が幸せな状態を考えるため、経済学的に考案されたのが、社会的厚生関数です。
社会に$n$人の人があり、それぞれの効用を$u_i$とすると、社会的厚生関数$w$は、次のように定義されます。
$W = w(u_1 , u_2 , \cdots , u_n)$
社会的厚生$W$を最大化するのが、社会的に望ましい状態と言えるでしょう。
3つの基準
上記の$W$のように、社会的厚生は定義することができますが、社会的厚生関数$w$がどのような関数なのかが問題となります。
そこであくまでも、上記の式は一般型なので、若干、特定化しましょう。
このとき、社会的に見て、各個人の効用関数のウェイトを$a_i$とし、個人間の関係を表すパラメーターを$\rho$とすると、
$\displaystyle W = \left[ \sum^n_{i=1} a_i u_i^\rho \right]^{1/\rho}$
のような社会的厚生関数を考えることができます。
更にこれを特定化したものとして、ウエイトは等しいとして$a_i=1$としたとき、ベンサム基準・ロールズ基準・ナッシュ基準の3つの基準(3つの社会的厚生関数)があります。
ベンサム基準
ベンサム基準(ベンサム型社会厚生関数)は、次のような形になります。
$\displaystyle W = \sum^n_{i=1} u_i$
この社会的厚生関数では、各個人の効用を足し合わせたものと考えます。
一見すると、全員の効用が等しいのが望ましいというような感じにも見えます。しかし、各個人の効用は異なるので、一部の個人の効用が低くても、他の個人の効用が高く、それを足し合わせたときに最も社会的厚生が高くなれば、是認されるような基準です。
ロールズ基準
ロールズ基準(ロールズ型社会厚生関数)は、次のような形になります。
$\displaystyle W = \min_{1 \leq i \leq n} u_i$
個人の中で、効用が最も低い個人を選び、その個人の効用を最大化するというのが、この基準になります。違う言い方をすれば、マクシミン原理に従った社会的厚生関数とも言えます。
ナッシュ基準
ナッシュ基準(ナッシュ型社会厚生関数)は、次のような形になります。
$\displaystyle W = \prod^n_{i=1} u_i$
各個人の効用関数を掛け合わせたものが、この社会的効用関数になります。
留意点
それぞれの基準はそのような主張をした哲学者などから命名されており、社会的厚生関数と言っても、特定化したとき、色々な基準があることが分かります。
そして、基準により、社会全体として望ましい形は異なってくることにもなります。
ただ、上記の式から分かるように、生産関数で考えると、CES型の生産関数から、線形生産関数・レオンチェフ型生産関数・コブダグラス型生産関数を導出した場合と対応していることに注意しましょう。
参考
奥野正寛・鈴村興太郎『ミクロ経済学Ⅱ』
小塩隆士『公共経済学』