概要
中央銀行が経済をコントロールしようとする場合、貨幣供給を増やすなど、いくつかの方法がありますが、その1つとして、金利をコントロールするというものがあります。
そして、この金利設定のルールとして、代表的なのが「テイラー・ルール」(Taylor rule)です。
テイラー・ルール
テイラー・ルールにおいては、インフレギャップとGDPギャップという2つの経済面を考慮して、金利を設定することになります。
具体的には、次のような式のもと、短期の名目金利$ i_t$を決定することになります。
$ i_t = a (\pi_t – \pi^{\ast}) + b (y_t – y^{\ast}) + (\rho + \pi^{\ast}) \qquad (a \gt 0, b \gt 0)$
ここで、右辺の第1項$ \pi_t – \pi^{\ast}$は、現在のインフレ率$ \pi_t$とインフレ目標$ \pi^{\ast}$の差であり、インフレギャップを表します。
右辺第2項$ y_t – y^{\ast}$は現在のGDP $ y_t$と潜在GDP $ y^{\ast}$との乖離であり、GDPギャップを表します。
最後の右辺第3項は、投資家の要求利回り$ \rho$とインフレ目標$ \pi^{\ast}$を足したものになっています。
金利設定
このテイラー・ルールに基づいたとき、名目金利$ i_t$は、次のような設定されることになります。
①経済状態に問題がない場合($ \pi_t = \pi^{\ast} , y_t = y^{\ast}$)
インフレギャップ($ \pi_t – \pi^{\ast}$)とGDPギャップ($ y_t – y^{\ast}$)がないときには、上記の式は、次のようになります。
$ i_t = \rho + \pi^{\ast}$
これは、実質利子率$i_t – \pi^{\ast}$と投資家の要求利回り$ \rho$が等しくなります。
(フィッシャー方程式に近い形になります)
②不況の場合($ \pi_t \lt \pi^{\ast} $ もしくは $ y_t \lt y^{\ast}$)
不況の場合には、インフレギャップ($ \pi_t – \pi^{\ast}$)やGDPギャップ($ y_t – y^{\ast}$)がマイナスになります。そこで、中央銀行は、大きく金利を引き下げることが求められます。
③好況の場合($ \pi_t \gt \pi^{\ast} $ もしくは $ y_t \gt y^{\ast}$)
好況の場合には、インフレギャップ($ \pi_t – \pi^{\ast}$)やGDPギャップ($ y_t – y^{\ast}$)がプラスになります。そこで、中央銀行は、大きく金利を引き上げることが求められます。
このように、テイラー・ルールに基づけば、機械的に金利を設定することができます。
問題点
一つの考えであることは間違いありませんが、必ずしもこのように金利を決めることはできません。
例えば、不況の場合において、インフレギャップ($ \pi_t – \pi^{\ast}$)やGDPギャップ($ y_t – y^{\ast}$)が大きければ、これらの値は大きなマイナスを計上します。それに対して、、投資家の要求利回り$ \rho$やインフレ目標$ \pi^{\ast}$が小さければ、名目金利$ i_t$はマイナスになります。しかし、現実の経済においては、金利をマイナスにすることはできないため、この式では実現が不可能となります。
(数値例)インフレギャップ-2%、GDPギャップ-1%、投資家の要求利回り1%、インフレ目標0%
名目金利 = インフレギャップ-2% – GDPギャップ1% + 投資家の要求利回り1% + インフレ目標0% = -1%
参考
齊藤誠・岩本康志・太田聰一・柴田章久『マクロ経済学』
川波洋一・上川孝夫(編)『現代金融論(新版) 』