はじめに
企業は、資本や労働などのいくつもの生産要素を用いて、財・サービスを生産しています。
これらの生産要素を1つもしくは複数増やせば、財・サービスの生産量も増加するのは、当然でしょう。
そうしたら逆に、生産量を一定にしたとき、ある生産要素の増減は、他の生産要素にどのように影響を与えるかが気になります。
例えば、機械と手作業で、数量限定の椅子を作っている企業があったとします。
このとき、人手不足で人件費が上昇したとします。生産量も増加すればいいのですが、数量限定なので、生産量は増やせません。この企業にとっては、手作業で行っている工程を機械に変えたほうが、費用は安く済むので、望ましいと言えるでしょう。
このような論理を、理論的に整理したのが、「等量曲線」(「等産出量曲線」とも言ったりします)になります。
等量曲線
企業は生産要素$K \, , \, L$を用いて、財$Y$を生産しているとし、次のような生産関数に直面しているとしましょう。
$Y = F(K \, , \, L)$
この生産関数について、生産量$Y$は一定($\bar{Y}$)としたとき、次のように、生産関数を表すことにします。
$L = G(K \, , \, \bar{Y})$
生産量$\bar{Y}$は一定で、$G$は生産要素$K$の関数となっています。
そして、この関数$G$をグラフにしたのが、「等量曲線」になります。
等量曲線は、一定量の財$Y$を生産するための生産要素$K$と$L$の組み合わせを表しています。
そして、財$Y$の生産量が増えれば、等量曲線は右上にシフトすることになります。
限界代替率
等量曲線は、生産要素$K$と$L$の組み合わせなので、当然ながら、1つの生産要素を増やせば、もう1つの生産要素はあまりいらなくなることを示しています。
この関係を見たのが、生産要素の「限界代替率」($MRS$)です。
限界代替率は、等量曲線の傾きの絶対値になり、一定の生産量を保つために、1つの生産要素の変化に対して、もう1つの生産要素がどうなるかの指標となります。
$K$の変化に対して、$L$がどうなるかを明示するため、限界代替率を$MRS_{LK}$とすると、上記の生産関数の式から、
$MRS_{LK} = – \dfrac{\partial G(K \, , \, \bar{Y})}{\partial K}$
となります。
限界代替率逓減の法則
限界代替率は、生産要素$K$と$L$の組み合わせによって変わってきます。
例えば、生産要素$L$を多く用いて生産を行っている場合(点B)には、生産要素$K$の重要性は高いと言えるでしょう。そのため、限界代替率の傾きは大きくなっています。
逆に、生産要素$K$を多く用いて生産を行っている場合(点A)には、生産要素$K$の重要性は低、限界代替率の傾きは小さくなっています。
このように、ある生産要素を増やすと、その生産要素の重要性は低くなり、もう1つの生産要素の重要性が増すことになり、これを「限界代替率逓減の法則」と言います。
限界代替率と限界生産力の関係
限界代替率は、1つの生産要素を増加させたとき、生産量を一定に保つために、もう1つの生産要素をどれだけ増やす必要があるかを示しているとも言えます。
最初の生産関数$F$に戻ると、生産要素$K$を1単位減らしたとき、生産量は$F_K(K \, , \, L)$だけ減少することになりますが、この減少分を生産要素$L$の増加で補うことを考えます。
このとき、生産要素$L$を1単位増やしたとき、生産量は$F_L(K \, , \, L)$だけ増えるので、生産要素$L$によって、生産量を1単位増やすためには、$1 / F_L(K \, , \, L)$だけ、$L$を増やせばいいことになります。
ですので、$F_K(K \, , \, L)$の減少を補うには、$L$を$F_K(K \, , \, L) / F_L(K \, , \, L)$を増やすことになります。
これらのことから、
$MRS_{LK} = \dfrac{F_K(K \, , \, L)}{F_L(K \, , \, L)}$
が成立することになります。
なお、$F_K(K \, , \, L)$は生産要素$K$の限界生産力、$F_L(K \, , \, L)$は生産要素$L$の限界生産力を表すので、限界代替率は、それぞれの生産要素の限界生産力の比で表せることが分かります。
参考
武隈愼一『ミクロ経済学』
奥野正寛(編著)『ミクロ経済学』