はじめに
ミクロ経済学の経済厚生における議論で、「生産者余剰」が出てきます。
消費者余剰と一緒に説明され、よくグラフでは、消費者余剰は三角形の上部分、生産者余剰は下部分といった感じです。
そして何となく、売上(生産量×価格)から費用を引いたものが、生産者余剰という形で理解していることが多いと思います。
これを数学的に見ることで、逆に分かりやすくなると思うこともあると思うので、説明したいと思います。
数学的な導出方法
定義
生産者余剰$PS$は、教科書的には回りくどい言い方をしている場合がありますが、一言でいえば、
「企業が生産をしない状態から、財を生産したときに得られる利益の増加分」
のことです。
企業が何もしないときと比べて、生産をしたらどれだけ儲かるかを見ていることになります。
なお、単純に、生産量がゼロならば、利益もゼロになると思うのは早計です。なぜなら、企業には固定費用が発生していることもあり、生産量がゼロのときは、赤字になる可能性もあるからです。
これを生産量が$x$のときの利潤関数を$\pi(x)$とすると、生産者余剰は、
$PS = \pi(x) \; – \; \pi(0) \cdots (1)$
のように定義されます。
導出方法
財の価格を$p$、費用関数を$C(x)$とすると、企業の利潤関数は、次のようになります(一般的な利潤関数の定式化ですね)。
$\pi(x) = px \; – \; C(x) \cdots (2)$
この$(2)$式をもとに、$\pi(x)$と$\pi(0)$を代入すると、
$PS = px \; – \; C(x) + C(0) \cdots (3)$
となります。
ここで、積分の公式を使うと、
$\displaystyle C(x) \; – \; C(0) = \int_0^x C'(z) dz \cdots (4)$
が成立するので、この$(4)$式を、$(3)$式に代入すると、
$\displaystyle PS = px \; – \; \int_0^x C'(z) dz \cdots (5)$
という生産者余剰の式を導出することができます。
ポイント
生産者余剰の意味
まずは、積分の公式を用いて導出した$(4)$式ですが、$(4)$式は、次のようにも表せます。
$\displaystyle C(x) = \int_0^x C'(z) dz + C(0)$
ここで$C(0)$は生産量がゼロのときの費用なので、固定費用です。(数学的な意味合いからも分かるかもしれませんが)このことから、$\int_0^x C'(z) dz$は可変費用であり、正しくこの式は、
費用 = 可変費用 + 固定費用
を表しています。
ここで、生産者余剰の$(5)$式に戻ると、$px$は売上で、$\int_0^x C'(z) dz$は可変費用なので、
生産者余剰 = 売上 - 可変費用
となっていることが分かります。
すなわち、生産者余剰の定義は、上記で述べたように、
「企業が生産をしない状態から、財を生産したときに得られる利益の増加分」
というものですが、結果としては、売上から可変費用を引けば、生産者余剰が計算できることになります。
生産者余剰の別表現
$(5)$式に$(2)$式を代入し、$px$をキャンセルすると、
$\displaystyle PS = \pi(x) + \; C(x) \; – \; \int_0^x C'(z) dz$
となります。ここで、$(4)$式を用いると、
$\displaystyle PS = \pi(x) + \; C(0)$
となります。$C(0)$は固定費用であることに注意すると、
生産者余剰 = 利潤 + 固定費用
であることが分かります。
最後に
導出方法などを含め、説明してきましたが、以上から、生産者余剰とは、
生産者余剰 = 生産したときの利潤 - 生産してないときの利潤
= 売上 - 可変費用
= 利潤 + 固定費用
ということになります。
数学的に考えたとき、グラフ理解だけでは得られない部分について、生産者余剰を考えることができるのではないかと思います。
参考
武隈愼一『ミクロ経済学』