レモンの原理
アメリカでは、俗語で質の悪い中古車のことを「レモン」と言います。本来は質に応じた価格で中古車は流通されるべきですが、市場ではこの質の悪いレモンが流通・選択される状況を「レモンの原理」と言います。
レモン自体は中古車の話ですが、経済学的には、このような状況は、情報の非対称性によって生じるとされます。
情報の非対称性というと難しい言い方ですが、二者で取引を行うとき、情報に差があるということです。
自分自身のことは当然ながら分かっているのですが、一方は相手のことを分かっており、もう一方は相手のことを分かっていないということです。
AとBが取引を行うとすると、
A:自身Aについて知っており、相手Bについても知っている
B:自身Bについて知っており、相手Aについては知らない
という話です。
そうすると、適正な価格で取引が行われなかったり、取引量に歪みが生じます。
上記のレモンの話でいえば、中古車を売りたい人と買いたい人がいたとき、
売り手:売りたい自分の車のことは知っている
買い手:買いたい相手の車のことは知らない
という話になります。
このときには、売り手は買い手が買おうとしている車のことを知らないため、売り手は実際の質以上の価格で車を売ろうとします。買い手は、そのような車の状況を知らないので、その車を買うしかなくなり、質の悪い車が出回ることになります。
なお、このような状況を「逆選択」とも言います。
具体例
このようなレモンの原理(もしくは逆選択)のような状況は、色々と考えられます。
保険
教科書的にも例として出てくるのが、保険です。
悪質ドライバーや病人などが、保険に入る状況を考えましょう。そのような人が保険に入ると、保険会社としては、事故費や治療費などの負担が大きくなりますとはいえ、保険会社としてはどういう人かは分からず、保険加入を認めることになります。その結果、保険料が高くなり、むしろ保険会社としては望ましい優良ドライバーや健康な人の加入を妨げてしまいます。
(保険会社)保険加入者のことを知らない
(保険加入者)保険会社のことを知っている(保険会社が自分のことを知らないことを知っている)
(結果)保険料が高くなる もしくは 保険が提供されない
食品偽装
食品偽装もこのレモンの原理に従っていると思われます。食品偽装の代表例(?)として、産地偽装があるかもしれません。
食品提供者は当然ながら、産地がどこであるかは知っています。しかし、消費者は産地で味を区別できません。このため、産地を偽った食品を提供すること(提供するインセンティブがあること)になります。
(消費者)産地による味の違いを知らない
(食品提供者)消費者が産地での味の区別ができないことを知っている
(結果)産地偽装が発生する(偽物が流通する)
クラウドソーシング
クラウドソーシングとは、企業や事業者が外注したいと思ったときにそのマッチングをネットで行うサービスです。企業がネットで外注したい仕事を提示し、それを見た外注業者が応募し、仕事を請け負う仕組みです。
このときに、ある企業が業務を発注したとしましょう。そうすると、いくつもの外注業者から応募が来ます。外注業者はその業務をどこまでできるかは自分自身のことなので、知っています。しかし、発注企業からすると、そのスキルは分からないので、いい外注業者もいれば、質の悪い外注業者もいる中で、評価を下げることになります。
結果、このクラウドソーシングのサービスは、本来の適正価格よりも、低い相場が一般化し、外注業者にとっては不利な状況が生じてしまいます。
(発注者)外注者のスキルを知らない
(外注者)発注条件を知っている
(結果)契約単価が低くなる
ご当地グルメ
実際は別として、ちょっと変わった例を挙げましょう。
観光客相手のご当地グルメを提供している飲食店を考えましょう。観光客はこのご当地グルメを食べたことはなく、味は知らないので、質はよくなくても、飲食店はご当地グルメとして料理を出してしまえば、問題は起こりません。
そうすると、このご当地グルメは、質の悪いものだけが、飲食店からは提供されることになります。
(観光客)ご当地グルメの味を知らない
(飲食店)観光客がご当地グルメについてよく分からないのを知っている
(結果)いい加減で質の悪いご当地グルメが提供される