概要
ハロッド・ドーマー・モデル(Harrod-Domer Model)とは、古典的な経済成長モデルの1つです。
同じ経済成長モデルであるソローモデルなどとは異なり、経済構造が一定の条件を満たしていなければ、安定的な経済成長は実現できないというモデルになっています。
モデル
本モデルにおいては、生産は資本$ K$と労働力$ L$を用いるものとします。
このとき、$ t$期の生産量$ Y_t$は、レオンチェフ型の生産関数を仮定し、次のようなものを考えます。
$ Y_t = min [ K_t , e^{gt} L_t] $
ここで、$ e^{gt}$は、技術進歩を表し、時間が経つごと($ t$が大きくなるほど)に労働生産性が上がることを示しています。
これを踏まえ、以下より、資本と労働それぞれを用いた場合の成長率を考えています。
資本について
まず、資本$ K_t$に関する生産量$ Y_t$の係数として、資本係数$ v$を定義します。
$ \dfrac{K_t}{Y_t} = v \qquad \cdots \qquad (1)$
これは、ある生産量を実現するには、一定の資本量が必要であることを示しており、その比率は時間に関係なく一定であることを仮定しています。
次に、生産したものはすべて所得に回るとし、所得のうち、一定の貯蓄率$ s$で貯蓄するものとします。そうすると、貯蓄額は$ sY_t$となります。そして、その貯蓄は、すべて投資$ I_t$に使われるとすると、
$ sY_t = I_t \qquad \cdots \qquad (2)$
が成立します。ここで、投資$ I_t$により、資本$ K_t$が増加するので、次式が成立します。
$ \dot{K} = I_t – \delta K_t \qquad \cdots \qquad (3)$
ここで、$ \dot{K_t} = d k_t /d t$を表し、単位時間当たりの資本の増加額をです。$ \delta$は資本減耗率で、資本$ K_t$は一定率$ \delta$で減耗する(減る)としています。
この$ (3)$式について、先ほどの貯蓄と投資の関係式$ (2)$を用いると、
$ \dot{K} = sY_t – \delta K_t$
となり、更に資本係数の$ (1)$式を用い、$ Y_t$をキャンセルし整理すると、
$ \dfrac{\dot{K_t}}{K_t} = \dfrac{s}{v} – \delta $
となります。この式は、資本を完全に利用する成長率であり、「保証成長率」($ G_w$)と呼ばれます。
$ G_w = \dfrac{s}{v} – \delta \qquad \cdots \qquad (4)$
なお、$ (1)$式から、時間微分すると、$ \dot{K_t} / K_t = \dot{Y_t} / Y_t$が得られ、この保証成長率と同じだけの生産量の増加率となっています。
労働力について
レオンチェフ型の生産関数なので、労働力だけを生産要素として用いるとすると、
$ Y_t = e^{gt} L_t$
という式となります。これを時間微分すると、次式が得られます。
$ \dfrac{\dot{Y_t}}{Y_t} = g + \dfrac{\dot{L_t}}{L_t}$
ここで、$ \dot{L_t} / L_t$は労働力の増加率ですが、$ n$と一定とすると、
$ \dfrac{\dot{Y_t}}{Y_t} = g + n$
となります。この成長率は、技術成長と労働力の増加による成長率であり、「自然成長率」($ G_n$)と呼ばれます。
$ G_n = g + n \qquad \cdots \qquad (5)$
均斉成長
以上から、資本を完全に利用したときの保証成長率($ G_w$)と、労働を完全に利用したときの自然成長率($ G_n$)の2つの成長率が得られました。
この2つの成長率をともに満たすとき、資本と労働を完全に利用していることになります。このことから、
$ G_w = G_n$
が成立する必要があります。資本・労働共に利用しているということで、「均斉成長」と呼ばれ、$ (4)(5)$式を使うと、
$ \dfrac{s}{v} – \delta = g + n \qquad \cdots \qquad (6)$
が成立するとき、この均斉成長が実現されます。
ナイフ・エッジ
$ (6)$がうまく成立していれば問題はないのですが、必ずしもそうとは限りません。
例えば、$ G_w \gt G_n$であり、保証成長率のほうが自然成長率より高いとしましょう。資本を使ったほうが成長率が高いため、労働力は使われなくなり、失業者が出てしまうことになります。
逆に、$ G_w \lt G_n$であり、自然成長率のほうが保証成長率より高いとしましょう。労働を使ったほうが成長率が高いため、資本は使われなくなり、遊休資産が溢れてしまいます。
ただ、$ (6)$式が必ずしも成立しているわけではなく、この式が少しでも満たさないと、その差はどんどんと拡大していきます。
この意味で、均斉成長の実現は非常に難しく、「ナイフ・エッジ」と呼ばれています。
このように、ハロッド・ドーマー・モデルにおいては、資源の完全雇用を伴う経済成長は難しく、経済は不安定であることを示しています。