概要
ハロッド・ドーマー・モデル(Harrod-Domer Model)とは、古典的な経済成長モデルの1つです。
同じ経済成長モデルであるソローモデルなどとは異なり、経済構造が一定の条件を満たしていなければ、安定的な経済成長は実現できないというモデルになっています。
モデル
本モデルにおいては、生産は資本と労働力
を用いるものとします。
このとき、期の生産量
は、レオンチェフ型の生産関数を仮定し、次のようなものを考えます。
ここで、は、技術進歩を表し、時間が経つごと(
が大きくなるほど)に労働生産性が上がることを示しています。
これを踏まえ、以下より、資本と労働それぞれを用いた場合の成長率を考えています。
資本について
まず、資本に関する生産量
の係数として、資本係数
を定義します。
これは、ある生産量を実現するには、一定の資本量が必要であることを示しており、その比率は時間に関係なく一定であることを仮定しています。
次に、生産したものはすべて所得に回るとし、所得のうち、一定の貯蓄率で貯蓄するものとします。そうすると、貯蓄額は
となります。そして、その貯蓄は、すべて投資
に使われるとすると、
が成立します。ここで、投資により、資本
が増加するので、次式が成立します。
ここで、を表し、単位時間当たりの資本の増加額をです。
は資本減耗率で、資本
は一定率
で減耗する(減る)としています。
この式について、先ほどの貯蓄と投資の関係式
を用いると、
となり、更に資本係数の式を用い、
をキャンセルし整理すると、
となります。この式は、資本を完全に利用する成長率であり、「保証成長率」()と呼ばれます。
なお、式から、時間微分すると、
が得られ、この保証成長率と同じだけの生産量の増加率となっています。
労働力について
レオンチェフ型の生産関数なので、労働力だけを生産要素として用いるとすると、
という式となります。これを時間微分すると、次式が得られます。
ここで、は労働力の増加率ですが、
と一定とすると、
となります。この成長率は、技術成長と労働力の増加による成長率であり、「自然成長率」()と呼ばれます。
均斉成長
以上から、資本を完全に利用したときの保証成長率()と、労働を完全に利用したときの自然成長率(
)の2つの成長率が得られました。
この2つの成長率をともに満たすとき、資本と労働を完全に利用していることになります。このことから、
が成立する必要があります。資本・労働共に利用しているということで、「均斉成長」と呼ばれ、式を使うと、
が成立するとき、この均斉成長が実現されます。
ナイフ・エッジ
がうまく成立していれば問題はないのですが、必ずしもそうとは限りません。
例えば、であり、保証成長率のほうが自然成長率より高いとしましょう。資本を使ったほうが成長率が高いため、労働力は使われなくなり、失業者が出てしまうことになります。
逆に、であり、自然成長率のほうが保証成長率より高いとしましょう。労働を使ったほうが成長率が高いため、資本は使われなくなり、遊休資産が溢れてしまいます。
ただ、式が必ずしも成立しているわけではなく、この式が少しでも満たさないと、その差はどんどんと拡大していきます。
この意味で、均斉成長の実現は非常に難しく、「ナイフ・エッジ」と呼ばれています。
このように、ハロッド・ドーマー・モデルにおいては、資源の完全雇用を伴う経済成長は難しく、経済は不安定であることを示しています。