概要
景気循環とは、経済状況がある時期はよくなり、別の時期は悪くなるというように、景気が周期的に上下することを指します。
経済学的には、定番のものとして4種類の波があるとされています。
そこで、この4種類の波について、どのような研究がベースになっているのか、どのようなものであるのかなどを説明したいと思います。
この波を理解することで、今後の景気を予測するのに役に立つかもしれません(「かも」という理由は最後に説明します)。
景気循環の4つの波
景気循環としては、次の4つがあるとされています。
(波の名前は、それぞれの波を発見した経済学者から命名されています)。
①キチン波
②ジュグラー波
③クズネッツ波
④コンドラチェフ波
キチン波(在庫循環)
キチン波は、アメリカの経済学者キチン(J.A.Kitchin)が発見した循環で、在庫の過不足の調整過程から、平均して40か月の循環があるというものです(このことから、「在庫循環」「小循環」とも呼ばれたりもします)。
調査データ:アメリカ・イギリスの1890年~1922年の卸売物価・手形交換高・利子率
循環の原因:在庫調整
周期 :約40か月
ジュグラー波(設備循環)
ジュグラー波は、フランスの経済学者キチン(C.Juglar)が発見した循環で、設備ストックの過不足の調整過程から、7~10年の循環があるというものです(このことから、「設備循環」「中期循環」とも呼ばれたりもします)。
調査データ:フランス・イギリス・アメリカの1800年代の物価・利子率・銀行貸し出しなど
循環の原因:設備調整
周期 :7~10年
クズネッツ波(建築循環)
クズネッツ波は、ノーベル経済学賞受賞者であるアメリカの経済学者クズネッツ(S.S.Kuznetz)が発見した循環で、住宅・建物の建築活動から、20年程度のの循環があるというものです(このことから、「建築循環」とも呼ばれたりもします)。
調査データ:アメリカの1850年代以降のGNP統計など
循環の原因:建築活動
周期 :20年程度
なお、調査データから分かるように、クズネッツ自身は周期性を見つけましたが、その原因は発見したわけではありません。ただその後、アメリカのリグルマンなどにより、その原因として、建築活動と特定されました。
コンドラチェフ波(長期波動)
コンドラチェフ波は、ロシアの経済学者コンドラチェフ(Kondratieff)が発見した循環で、生産技術・金生産・戦争・農業などから、40~60年程度の循環があるというものです(このことから、「長期波動」とも呼ばれたりもします)。
調査データ:アメリカ・イギリス・フランス・ドイツの1780年~1920年の卸売物価・利子率・賃金・生産など
循環の原因:生産技術・金生産・戦争・農業など
周期 :40~60年程度
この循環の原因の1つとして生産技術があり、イノベーション・技術進歩の重要性を唱えたシュンペーターによっても支持された循環としても知られています。
まとめ
以上を表にすると、次のようになるでしょう。
別名 | 原因 | 周期 | |
---|---|---|---|
キチン波 | 在庫循環、小循環 | 在庫調整 | 約40か月 |
ジュグラー波 | 設備循環、中期循環 | 設備調整 | 7~10年 |
クズネッツ波 | 建築循環 | 建築活動 | 7~10年 |
コンドラチェフ波 | 長期波動 | 生産技術・金生産・戦争・農業など | 40~60年程度 |
ただ、当然ながら、上記の経済学者だけが実証研究を行ったわけではなく、他にもいろいろな研究が行われており、期間については、書籍によっては違う場合があるので、注意が必要です。
むしろ、上記のような原因などを考えると当てはまっているように思うのですが、実証研究的には必ずしも成立していないというほうが正しいのかもしれません(キチン波だけは観測されるが、それ以外は研究次第のような話もあります)。
直観的に、日本経済でコンドラチェフ波を考えてみましょう。
太平洋戦争で負けた1945年を底だと考えると、山が来るのはその20・30年後の1965年から1975年になり、高度成長とぴったりで当てはまっているようです。その後、景気循環は後退期が来て、その20・30年後の1985年から2005年に底を迎えることになります。バブル経済崩壊を考えると、その通りのようにも思います。
その後を考えると、コンドラチェフ波が正しければ、1990年代を底にして、日本経済は上昇期を迎えるはずです。しかし現実は、日本経済は失われた20年・30年を迎え、停滞が続いています。上昇期の原因である戦争などがなかったからという話もあるでしょうが、IT化という技術革新もあり、異次元の金融緩和(金生産に該当)なども行われています。
これらの点から、この4つの波が必ずしも成立しているわけではないということです。
(この意味で、冒頭で「役に立つかも」といった次第です)
ただ、景気循環はあることは確かですし、ある原因により、循環・サイクルが生じることは確かだとは思います。
参考
鴇田忠彦・藪下史郎・足立英之『初級・マクロ経済学』