概要
債券や借入などの利回りについて、通常は、長期になれば、その分、利回りは高くなると高くなると考えられています。
このように、満期までの期間と利回りの関係を表すのが「イールドカーブ」(yield curve)です。
図で表すと、下図のように横軸に期間をとり、縦軸に金利をとったときの曲線になります。
そして、通常は、期間が長くなると、金利は高くなると思われますが、そのような場合には「順イールド」といいます。ただそのような場合だけではなく、逆に、期間が長くなるほど、金利が下がる場合もあり、このような場合には「逆イールド」と言います。
金利と期間の関係に関する仮設
ところで、上記の順イールドなどのように、期間が長くなれば、なぜ金利も高くなっていくのでしょうか。
これについては、主なものとして、3つの仮説があります。
流動性プレミアム仮説
満期までの期間が長いほど、債券購入者は現預金ではなく、債券という形で資産をもつことになるので、その分、資産の流動性が下がります。また、期間が長いほど、債券発行者のデフォルトなどのリスクも大きくなります。
このような流動性の制約やリスクなどから、期間が長くなるほど、金利も高くなるというのが、「流動性プレミアム仮説」です。
一般的に、短期よりも長期のほうが金利が高いと思っている背景には、この考えがあるのではないでしょうか。
特定期間選好仮設
短期と長期では、別々の需給要因で金利が決まるため、上記のような金利の期間構造が生じるというものです。
通常、貸し手(債券購入者)は資金の流動性などを考えれば、短期の債券などを好みます。そうすると、貸し手が多いので、資金供給は大きくなり、金利は下がることになります。
逆に、借り手(債券発行者)は資金に余裕を持ちたいため、長期の債券を好みます。そうすると、資金を欲しい人のほうが多いので、金利は上昇します。
つまりまとめると、
短期 ⇒ 資金供給が大きい ⇒ 金利低下
長期 ⇒ 資金需要が大きい ⇒ 金利上昇
という状況が生じ、順イールドのような現象が起こるというものです。
期待仮設
上記の流動プレミアム仮説や特定期間選好仮は、直観的に納得できるものです。
ただ、この2つでは、順イールドは説明できても、逆イールドは説明できません。
そこで、逆イールドのような場合も説明するものとして、期待仮説があります。
期待理論では、長期で債券を保有しても、短期で債券を保有しても、裁定取引を通じて、最終的な収益は同じになると考えます。なぜならば、長期・短期のいずれかのほうが収益が高くなれば、もう一方の債券は売れなくなるからです。
そうすると、長期金利は、短期金利で運用した場合の平均予想金利と等しくなるとされます。
順イールド
例えば、1年毎の短期の債券を考えましょう。
0期において、100万円の投資を行うとして、今後も5%の金利が続くとしましょう。
複利で運用するとすると、次のような形になります。
0期 | 1期 | 2期 | 3期 | |
---|---|---|---|---|
(予想)金利 | 5% | 5% | 5% | 5% |
資産 | 100 | 105(=100×1.05) | 110.25(=105×1.05) | 115.7625(=110.25×1.05) |
収益率 | 5% | 10.25% | 15.7625% |
この表から、1年毎に短期で運用していった結果、0期の100万円が3期には115.7625万円になり、15.7625%の収益率となることが分かります。
ところで、3期目に満期が来る長期の債券(単利)を考えましょう。このとき、裁定取引があるならば、この債券の金利は5.2542%(=15.7625% ÷ 3)でなければなりません。
なぜなら、
収益 = 100 × 1.052542 + 100 × 1.052542 + 100 × 1.052542 = 115.7625
ということから、長期金利が5.2542%以上であれば、短期債券は売れず、逆に長期金利が5.2542%未満ならば、この長期債券は売れないからです。
この考えから、長期金利は、1期目は5%、2期目は5.125%(=10.25% ÷ 2)、3期目は5.2542%(=15.7625% ÷ 3)となり、期間が長期になるほど、金利は高くなり、順イールドのカーブを描くことができます。
逆イールド
上記では、金利は変わらないと予想しましたが、短期の金利が低下していくと予想したとしましょう。
例えば、0期から1期は5%、1期から2期は4%、2期から3期は3%とします。
上記と同様に、100万円を1年毎の短期の債券で運用するとして、収益率は次のようになります。
0期 | 1期 | 2期 | 3期 | |
---|---|---|---|---|
(予想)金利 | 5% | 4% | 3% | |
資産 | 100 | 105(=100×1.05) | 109.2(=105×1.04) | 112.476(=109.2×1.03) |
収益率 | 5% | 9.2% | 12.476% |
上記と同様に、各期の長期金利を考えると、1期目は5%、2期目は4.6%(=9.2% ÷ 3)、3期目は4.1587%(=12.476% ÷ 3)となります。
このように、期間が長期になっても、金利が下がるという予想がなされれば、逆イールドカーブになります。
参考
家森信善『金融論』
藤木裕『金融の基礎』