限界のq
トービンのqにおいては、平均のqと限界のqがあります。
そして、限界のqは、企業価値を$V$、資本を$K$とすると、次式のように表せます。
$q = \dfrac{d \, V}{d \, K}$
この限界のqについて、その導出方法を説明したいと思います。
導出方法
企業は、$t$期において、生産要素として資本$K_t$を使って生産を行うものとして、その利潤の一部を投資$I_t$に回すものとします。また、投資に関して調整費用$C(I_t)$がかかるとすると、$t$期の利益$\pi_t$は、
$\pi_t = F(K_t) \; – \; I_t \; – \; C(I_t)$
となります。
利子率を$r$とすると、この企業の企業価値$V$は、次のようになります。
$\displaystyle V = \sum_{t=1}^{\infty} \dfrac{\pi_t}{(1+r)^{t-1}} = \sum_{t=1}^{\infty} \dfrac{1}{(1+r)^{t-1}} [F(K_t) \; – \; I_t \; – \; C(I_t)] \quad \cdots \quad (1)$
他方、企業の資本蓄積は、次のようになります。
$K_{t+1} = I_t + K_t \quad \cdots \quad (2)$
以上から、企業は、$(2)$式の制約のもと、$(1)$式の企業価値$V$の最大化を図るものとします。
ラグランジュ乗数$L$とすると、
$\displaystyle L = \sum_{t=1}^{\infty} \dfrac{1}{(1+r)^{t-1}} [F(K_t) \; – \; I_t \; – \; C(I_t)] + \sum_{t=1}^{\infty} \lambda_t(I_t + K_t \; – \; K_{t+1})$
であり、
$q_t = \lambda_t(1+r)^{t-1}$
と定義すると、上記のラグランジュアンは、
$\displaystyle \tilde{L} = \sum_{t=1}^{\infty} \dfrac{1}{(1+r)^{t-1}} [F(K_t) \; – \; I_t \; – \; C(I_t) + \lambda_t(I_t + K_t \; – \; K_{t+1})]$
となります。
これについて、$I_t$と$K_{t+1}$について、微分しゼロとすると、
$\displaystyle \dfrac{\partial \tilde{L}}{\partial I_t} = \sum_{t=1}^{\infty} \dfrac{1}{(1+r)^{t-1}} [\; – \; 1 \; – \; C'(I_t) + \lambda_t] = 0$
$\displaystyle \dfrac{\partial \tilde{L}}{\partial K_{t+1}} = \sum_{t=1}^{\infty} \dfrac{1}{(1+r)^{t-1}} [ \; – \; q_t] + \sum_{t=1}^{\infty} \dfrac{1}{(1+r)^{t}} [F'(K_{t+1}) + q_{t+1}] = 0$
であり、式変形すると、
$q_t =1 + C'(I_t)$
$q_t = \dfrac{1}{1+r} [F'(K_{t+1}) +q_{t+1}] \quad \cdots \quad (1)$
となります。
ここで、$(1)$式において、$q_{t+1}$について、逐次代入が可能なので、
$\displaystyle q_t = \dfrac{1}{1+r} [F'(K_{t+1}) + q_{t+1}] = \dfrac{F'(K_{t+1})}{1+r} + \dfrac{F'(K_{t+2})+q_{t+2}}{(1+r)^2} = \quad \cdots$
であり、
$\displaystyle q_t = \sum_{i=1}^{\infty} \dfrac{F'(K_{t+i})}{(1+r)^i} + \lim_{j \rightarrow \infty} \dfrac{q_{t+j}}{(1+r)^j}$
となります。ただ、この式の右辺第2項はゼロになるので、
$\displaystyle q_t = \sum_{i=1}^{\infty} \dfrac{F'(K_{t+i})}{(1+r)^i}$
を得ることができます。
この式において、資本の限界生産性を割り引いたものの合計となっており、$t$期に投資を増加させたときに、企業が価値がどれだけ増加させるのかを示すものとなっています。
他方、限界的な資本の再取得価格は$1$となので、この式は、限界のqを表しているとされます。
参考
二神孝一・堀敬一『マクロ経済学』
デビッド・ローマー『上級マクロ経済学』