はじめに
政府にとって、経済政策は重要ですが、その政策の効果が表れるまでには、時間がかかるとされます。
例えば、風邪を引いたとして、風邪薬を飲んだとしても、薬が効くには、一定の時間がかかるでしょう。
これと同様に、政府が経済政策を実施しても、すぐに効果が出るわけではありません。
それだけではなく、それ以外にも経済政策特有の遅れや時間がかかるという問題があります。
3つのラグ
経済政策においては、上記の風邪薬の例以外にも、遅れが生じる可能性があります。
そして通常、経済政策では、効果が表れるまで、次の3つの遅れ(ラグ)があるとされます。
・認知のラグ
・行動のラグ
・効果のラグ
認知のラグ
認知のラグとは、経済上の問題が発生したとき、政府がその問題を認識するまで、時間がかかるということです。
病気でいえば、癌などになっても、すぐには気づかないというのと似ているでしょう。
経済でも同様で、問題が生じていても、すぐにその問題を認識することはできません。
また、経済特有の問題としては、統計データの問題もあります。株価や為替のように毎日のようにデータがあるものもありますが、GDP・雇用・物価のように、データを取得するのに、時間がかかるものもあります。データがなければ、当然ながら、問題が生じているかどうかも分からないわけで、その分、認識に時間がかかってしまいます。
行動のラグ
問題を認識しても、それが政策として実行されるまでには、時間がかかります。
すぐに実行できるものもありますが、通常は、民主的な政府においては、政策は予算や法律という形をとるので、議会の決定・了解が必要なので、どうしても時間がかかってしまいます。
そんなものはどうでもいいと思うかもしれませんが、それはある意味「独裁」という話なので、民主主義のもとでは、どうしても、この行動のラグというものが生じてしまう面があります。
また、ある政策が、議会などをすぐに通過しても、その執行(実行)に時間がかかる場合もあります。
例えば、国民にお金を配るという政策があっても、その手続きに時間がかかったり、役所のマンパワーなどから、すぐにお金が配られるわけではありません。
このように、政策が実際に実行に移されるには、ある程度の時間がかかるとされます。
効果のラグ
最後の効果のラグは、経済政策が実施されても、上記の風邪薬の例のように、その効果が表れるまでには、時間が必要です。
特に、制度の変更のような政策については、その制度が浸透する時間が必要であり、より一層時間が必要となります。
ポイント
経済政策においては、上記のようなラグがあることを踏まえ、ポイントしては、次のような点があります。
1つは、経済政策を実施しても、効果が表れるまで、時間がかかるという点です。
2つは、時間がかかることによって、経済政策が適切なものにならない可能性があるということです。
経済状況は絶えず変化しているので、ある問題が発生したときには問題であっても、その効果が出る頃には、その問題は収まっている可能性があります。そうすると、その経済政策は、むしろ経済状況にバイアス(歪み)をもたらすことも出てきたりもします。
(このような問題から、マネタリズム的には、政策ではなく、ルールが重要であるという考えもあります)
3つは、ラグがあることを前提に、経済政策を検討しなければならないという点です。
例えば、現在はある問題が発生していても、政策の実行・効果が表れる頃には収まっていれば、その政策は無意味です(むしろ、有害な場合もあります)。
4つは、いかにラグを短縮化するかということです。
政府としては、「認知のラグ」や「効果のラグ」はどうしようもない点がありますが、「実行のラグ」は短縮化できる可能性があります。
例えば、日本では政府は予備費という形で、自由にいつでも使えるお金を持っています。そうすれば、通常の予算による財政政策とは別に、議会の手続きは不要で、迅速に財政支出を行うことができます。
このように、経済政策を考える上で、同じ効果が得られるとしても、「実行のラグ」が短いか長いかという視点は重要になります。
最後に
経済政策にとっては、上記のようなラグはつきものです。
この中で、ラグが少ないのは、一般的には、金融政策でしょう、この点で、金融政策や日本銀行の動向は非常に重要です。
例えば、通貨供給量をコントロールしたいと思えば、買いオペ・売りオペを行えば、(その効果はどれだけかは別として)マネタリー・ベース(ハイパワード・マネー)をすぐにコントロールできるでしょう。
ただ同時に、金融政策にも限界があるので、注意が必要です。
財政政策・金融政策などといった政策の種類だけではなく、このようラグを踏まえ、総合的に経済政策は検討する必要があります。