はじめに
マクロ経済学を学んでいると、IS-LMモデルを学んだあとに、総供給曲線や総需要曲線によるAD-AS分析が出てきたり、労働市場の話が出てきたりします。
そのとき、
「AD-AS分析とIS-LMの関係は?」
「IS-LMとAD-ASは関係がありそうだけど、話のメインはAD-ASなのはなぜ?」
「なんで、労働市場の話が出てくるの?」
「それぞれの所得や総生産の関係は?」
など、色々な疑問が出てくることがあります。
なぜ、このような疑問が生じるかというと、
・共通している変数
・総需要曲線と総供給曲線の導出
・短期・中期・長期の違い
にあるのではないかと思います。
そこで、これらを整理し、AD-AS分析におけるIS-LM分析と労働市場の関係を説明したいと思います。
関係性
変数
まずは、IS-LMを考えましょう。
IS曲線においては、(輸出入は省略すると)消費は所得、投資は利子率の関数で、外生的に政府支出が与えられることになります。他方、LM曲線は、物価と貨幣供給は外生変数で、利子率と所得で貨幣需要が決定されるとしています。
このように、IS-LM曲線は、政府支出・物価・貨幣供給を外生変数として、利子率と所得が決定されます。
AD-AS曲線では、総需要と総供給が均衡するように、所得と物価が決定されます。
労働市場では、一定の物価のもと、労働力と賃金が決定されます。そして、そこで決定された労働力により、所得が決まるとされます。
以上をまとめると、次のような表になります。
見たらわかるように、どれにおいても、所得と物価が関係していることが分かります。
内生変数 | 外生変数 | |
---|---|---|
IS-LM分析 | 利子率、所得 | 政府支出、貨幣供給、物価 |
AD-AS分析 | 物価、所得 | |
労働市場 | 労働力(所得)、賃金 | 物価 |
総需要曲線と総供給曲線の導出
上記の表を見ると、AD-AS分析のところで、外生変数が空欄になっています。
なぜかと言えば、IS-LM分析から総需要曲線が、労働市場から総供給曲線が導出されるからです。
IS-LM分析 ⇒ 総需要曲線
労働市場 ⇒ (所得の決定) ⇒ 総供給曲線
なので、IS-LMで、外生変数である政府支出、貨幣供給、物価が変われば、IS-LMでは利子率と所得が変わり、同時にそれに伴い、総需要曲線も変化します。
労働市場においても、物価が変わったり、何らかの影響で賃金・労働力の関係が変われば、所得が変わり、総供給曲線も変化することになります。
このように、IS-LM分析と労働市場により、総需要曲線や総供給曲線が導出されています。
短期・中期・長期
ただここで注意が必要なのが、短期・中期・長期における違いです。
短期においては、賃金や物価は変化せず、固定的なので、総供給曲線は水平になり、IS-LM分析で得られた総需要曲線で所得が決定されます。労働市場においては、その所得に応じて、労働力が決定されますが、賃金や物価が固定しているので、労働市場は均衡せず、失業などが生じることになります。
言い換えれば、労働市場では不均衡が生じているかもしれませんが、物価は固定されており、総需要曲線でAD-ASは決定されるので、IS-LMが分析の中心になります。
逆に長期においては、賃金や物価は完全に調整され、労働市場においては完全雇用が達成され、所得が一定になるので、総供給曲線は垂直となります。その元で、物価が決定され、IS-LMも均衡に向かうと考えられます。
中期においては、賃金や物価は調整されますが、労働力は完全雇用ではなく、労働需要と労働供給で決定されると考えます。そしてその元で、総供給曲線が導出されるので、総需要曲線との均衡で、所得や物価が決定されると考えます。
以上から、短期・中期・長期において、分析しているものが異なり、どの部分を分析しているかという視点で整理すると、
短期 … IS-LM
中期 … IS-LM、AD-AS、労働市場
長期 … 不要(完全雇用均衡)
となります。
参考
齊藤誠・岩本康志・太田聰一・柴田章久『マクロ経済学』
鴇田忠彦・藪下史郎・足立英之『初級・マクロ経済学』