はじめに
経済を分析するにあたり、ある産業で需要が増えたとき、他の産業ではどうなるかといったことは、非常に気になるところです。
例えば、かつ丼の需要が増加した場合には、トンカツ、卵、ごはんなどの材料の需要も増加するでしょうし、それを作るための水道・燃料・調理器具などの需要も増加します。更には、かつ丼を入れるどんぶりやトレーなどの需要も増えるでしょう。
このようなことを分析できるのが、産業連関分析です。
そこで、ここでは、この産業連関分析の基本モデルについて説明します。
基本モデル
基本式
産業連関分析においては、生産と需要が一致していると考えます。
そして、需要は、中間需要と最終需要に分けられると考えます。ある産業は、消費者といった最終需要向けと、法人向けなどの他産業の生産活動に使用する中間需要の2つの需要を満たすように生産を行っているとするわけです。
このとき、次式のようになります。
中間需要 + 最終需要 = 生産
ここで基本モデルとして、2部門がある場合を考えましょう。生産を$ X_i (i=1, 2)$、最終需要を$ F_i (i=1, 2)$、中間需要を$ x_{ij} (i, j = 1 , 2)$とすると、次のように表すことができます。
部門1 … $ x_{11} + x_{12} + F_1 = X_1$
部門2 … $ x_{21} + x_{22} + F_2 = X_2$
例えば、部門1においては、自部門である部門1で使う中間需要$ x_{11}$、部門2に提供する中間需要$ x_{12}$、部門1への最終需要$ F_1$の合計が、部門1の生産$ X_1$と等しくなっているということです。
投入係数
ここで、投入係数というものを導入します。
投入係数とは、ある部門で1単位の生産を行うのに必要な中間需要であり、
$ a_{ij} = \dfrac{x_ij}{X_i} (i, j = 1 , 2)$
で表します。
例えば、$ a_{12}$ならば、
$ a_{12} = \dfrac{x_{12}}{X_1}$
を意味し、部門1の中間需要$ x_{12}$を生産$ X_1$で割ったものとなっています。これは、部門1で1単位の生産を行うにあたり必要な部門2からの中間需要を表しています。
この投入係数$ a_{ij}$を用いて、上記の2式を変形すると、
部門1 … $ a_{11} X_1 + a_{12} X_1 + F_1 = X_1$
部門2 … $ a_{21} X_2 + a_{22} X_2 + F_2 = X_2$
となります(上記の式と似ていますが、中間需要部分が生産$ X_i$で表現されていることに注意してください)。
レオンチェフ逆行列
上記の2式を生産$ X_i$で整理すると、
部門1 … $ \displaystyle X_1 = \dfrac{1-a_{22}}{(1-a_{11})(1-a_{22})-a_{12}a_{21}}F_1 + \dfrac{a_{12}}{(1-a_{11})(1-a_{22})-a_{12}a_{21}}F_2 $
部門2 … $ \displaystyle X_2 = \dfrac{a_{21}}{(1-a_{11})(1-a_{22})-a_{12}a_{21}}F_1 + \dfrac{1-a_{11}}{(1-a_{11})(1-a_{22})-a_{12}a_{21}}F_2 $
となります。
式としてはややこしいのですが、これは最終需要$ F_i$が与えられると、それぞれの部門の生産$ X_i$が決まることになります。
このためこれにより、ある部門の最終需要が変化したとき、各部門の生産がどうなるかを分析することができます。
例えば、部門1の最終需要$ F_1$が$ \Delta F$増加したときには、上記の2式の右辺第1項が増加するので、それぞれの部門では、
部門1 … $ \displaystyle \dfrac{1-a_{22}}{(1-a_{11})(1-a_{22})-a_{12}a_{21}}\Delta F$
部門2 … $ \displaystyle \dfrac{a_{21}}{(1-a_{11})(1-a_{22})-a_{12}a_{21}}\Delta F$
の分だけ、生産が増加することになります。
まとめ
産業連関分析で、特に重要なのは、レオンチェフ逆行列の部分で、ある産業の最終需要の変化が他の産業にどのように影響を与えるのかが分かる点です。
そして、それぞれに対応した統計データが、総務省より提供されています。
総務省「産業連関表」
また、もっと細かく見たければ、都道府県でも産業連関表は作成されていますので、一度、ご覧ください。
参考
宮沢健一『産業連関分析入門』