概要
財政政策の一つとして、減税があります。減税することで、家計や企業の可処分所得を増やし、その増えたお金を使ってもらい、景気を良くしようとする政策です。
当然ながら、減税し増加したお金がすべて、何かの支出に充てられるわけではなく、貯蓄・預金に回る部分もあり、減税した額だけの効果はあるわけではないのですが、景気刺激策としては1つの方法として確立したものとなっています。
ただ、
「公債発行により、減税をしたとしても、意味はない」
とするのが、リカードの等価命題(Ricardian equivalence theorem)です(リカードの中立命題とも言われます)。
リカードの等価命題
減税は、家計や企業にとってありがたい話ですが、その財源として公債を使った場合は、別の話になります。
財源を公債とすると、将来、政府はその公債を償還しなければならず、その資金が必要になります。景気がよかったり、経済成長していれば別ですが、通常は、増税によって、償還費用を賄うことになります。
家計や企業が何も考えてなければ別ですが、上記のようなロジックを想定し、現在の減税に対して、将来の増税を予想した場合、家計や企業はその減税され増加したお金は預金することが合理的な行動になります。なぜなら、今使うと、将来、増税されたときにその増税分を支払うお金がなくなるからです。
この結果、公債発行で減税がなされたとしても、将来の増税に備え、現在は消費につながらず、景気刺激策としては効果がないとするのが、リカードの等価命題です。
つけを残すかどうか
このリカードの等価命題が成立するには、いくつかの条件があります。
その1つとして、現在の世代が、将来のことは考えず行動した場合、この命題は成立しません。
人間には寿命がある以上、死んだ後のことはどうでもいいと考えれば、将来、増税があっても、自分にとっては無関係な話です。つまり、今の自分のことだけを考え、「つけ」を残してもいいと考えれば、この命題は成立しないことになります。
ただ逆に言えば、「つけ」を残さないように、家計や企業が考えれば、この命題は成立することになります。
経済学においては、基本的には自分自身だけのことを考えて行動するという形で理論が説明されますが、「利他的動機」という形で自分以外の利益も追及するというモデルも存在します。
このとき、この「利他的動機」をもとに将来世代を心配し、将来の増税に備え、将来世代に資産を残すような行動をとれば、寿命があっても、この命題は成立することになります。
(なお、この説明にあたっては、世帯重複モデル(OLG model:Overlapping-generation model)が用いられます)
個人的な私見
実証的にも、この命題は成立していないようです。
上記のように、「利他的動機」が人間にどこまであるのかという問題もありますし、この命題においては、次のような点でも、現実的とは言えない仮定が置かれているからです。
・家計・企業は合理的である
・将来の経済状況が変化しない
・資金制約がない など
言い換えれば、現実は次のような話でしょう。
・家計・企業は合理的ではない
当然と言えば当然です。
・将来の経済状況が変化しない
現在よりも、将来の経済状況がよくなれば、「つけ」を残しても、問題ないはずです。
将来の経済状況を悪いと判断しても、モラルハザードの可能性は十分にあります。
・資金制約がない
仮に将来の増税を予想しても、現在お金がなければ、使ってしまいます。
このように考えると、この命題自体は意味がないと思われるかもしれません。
ただ、私としては、良きにつけ悪しきにつけ、経済学らしい感じがしており、経済学的なロジックを学ぶに参考になると思っています。また、上記のような非現実的な仮定を外しながら考えていくというのが、経済学の発展につながるのではと思っています。