流動性の罠
マクロ経済学において、流動性の罠とは、金利が低いときに、LM曲線が水平になり、金融政策が無効になる状態のことです。
グラフでは、下のように、所得はIS曲線とLM曲線が交わるYの部分になるのですが、金融政策でLM曲線を右にシフトさせようとしても、所得が増加することはないことが分かります。
流動性の罠から抜け出すには、財政政策によりIS曲線を右にシフトさせるしかないことになります。
ピグー効果(実質残高効果)
しかし、経済学者のピグーは、物価の下落があれば、流動性の罠から抜け出すことが可能と主張しました。
家計は、金融資産を保有していますが、それらの金融資産は名目で取引されているので、物価が下落すると、金融資産の価値は相対的に上昇することになります。
ただ、民間部門においては、金融資産である債権は、他の人にとっては債務であり、国全体で見れば、金融資産の価値の相対的な上昇はありません。
唯一例外があるのが、貨幣です。貨幣は中央銀行の債務であり、民間部門にとっては、債権になります。すなわち、物価の下落により、貨幣の価値が相対的に上昇し、家計の消費が増えるとピグーは考えました。
①物価$P$ ↓
②貨幣の実質残高$M/P$ ↑
③消費$C(Y \, , \, M/P)$ ↑
この結果、家計の消費が増えるので、IS曲線が右にシフトし、流動性の罠から抜け出すことができると考えたわけです。
そして、このような主張をしたピグーの名をとって「ピグー効果」と言われたり、貨幣の実質残高が増えることから、「実質残高効果」と言われます。
フィッシャーによる反論
上記のようなピグー効果を異を唱えたのが、経済学者フィッシャーです。
民間部門においては、債権を持っている人と債務を負っている人がおり、マクロ的に見れば、物価下落の効果は相殺されるかもしれません。
ただ、債権者と債務者では、消費性向が異なる可能性があります。
債権者
元々、一生懸命に貯蓄をしてきたから債権者になれたわけで、消費性向は小さく、物価が下落しても、消費をあまり伸ばさない
債務者
元々、消費を多くしてきたから債務者になっており、消費性向が大きい人ですが、物価下落で債務負担が増加するので、より一層、消費を減らすことになる
このようなことを考えると、物価の下落は、むしろ家計の消費の減少をもたらし、IS曲線が左にシフトする可能性があると主張しました。
そうすると、貨幣の実質残高が上がり、消費にとってはプラスになるでしょうが、金融資産の実質価値が上がると、消費にはマイナスになり、物価下落の効果は、どのようになるかは、一概に言えないことになります。
①物価$P$ ↓
②貨幣の実質残高$M/P$ ↑
金融資産の実質価値$B/P$ ↑
③消費$C(Y \, , \, M/P \, , \, B/P)$ ?
参考
中村保・北野重人・地主敏樹『マクロ経済学』