はじめに
経済学における動学モデルにおいては、一般的に、代表的個人である1人が永遠に生き続けることが想定されています。
しかし、現実的にはそうではありません。
人間は、子供が生まれ、若者になり、老年へと移り変わっていきます。そして、それぞれの時期で、経済行動は変わります。そうすると、どうなるのかを分析するのが、世代重複モデル(OLGモデル)です。
世帯重複モデル(OLGモデル)
基本
世代重複モデルにおいては、人は若年期と老年期を生きるとします。
若年期に働き、所得を得て、その一部を貯蓄に回し、老年期はその貯蓄で消費すると仮定します。
$t$期世代の各人は1単位の労働力を提供し、賃金$w_t$を得るとし、消費を$c_t$、貯蓄を$s_t$、利子率を$r_t$とすると、$t$期世代は、
若年期:$w_t = c_t + s_t \quad \cdots \quad (1)$
老年期:$c_{t+1} = (1 + r_{t+1}) s_t \quad \cdots \quad (2)$
という予算制約に直面することになります。
他方、この経済の人口について考えると、$t$期の世代の人口を$L_t$とし、毎年$n$だけ、人口が増えていくとします。
そうすると、$0$期からの複利計算なので、$t$期世代の人口は、次のようになります。
$L_t = (1 + n)^t L_0 \quad \cdots \quad (3)$
個人の効用最大化
$t$期世代の個人の効用関数$u$を、次のように仮定します。
$u(c_t \, , \, c_{t+1}) = \ln c_t + \dfrac{1}{1 + \rho} \ln c_{t+1}$
ここで、$\rho$は主観的割引率です。
この個人が予算制約$(1)(2)$式のもと、効用の最大化を図るわけですが、これは二期間の異時点間の消費に関する問題なので、
$\dfrac{c_{t+1}}{c_t} = \dfrac{1 + r_{t+1}}{1 + \rho}$
というオイラー方程式を得ることができます(なぜこのようなになるかを知りたい方は、「消費者行動における異時点間の消費について」を見てください)。
これに、$(1)(2)$式の予算制約式を代入し、$c_t \, , \, c_{t+1}$をキャンセルすると、
$\dfrac{(1 + r_{t+1}) s_t}{w_t \; – \; s_t} = \dfrac{1 + r_{t+1}}{1 + \rho}$
であり、変形すると、次のような貯蓄の式を得ることができます。
$s_t = \dfrac{1}{2 + \rho} w_t \quad \cdots \quad (4)$
企業の利潤最大化
企業は、$t$期において、資本$K_t$と労働力$L_t$を用いて、次のようなコブダグラス型の生産関数$Y_t$で、生産を行うとします。
$Y_t = K_t^\alpha L_t^{1-\alpha}$
$\alpha$はパラメーターで、$0 < \alpha < 1$とします。
この企業が利潤を最大化したとき、それぞれの生産要素の価格と限界生産力は等しくなるので、
$r_t = \dfrac{\partial Y_t}{\partial K_t} = \alpha \dfrac{K_t^{\alpha – 1}}{L_t^{\alpha – 1}}$
$w_t = \dfrac{\partial Y_t}{\partial L_t} = (1 \; – \; \alpha) \dfrac{K_t^\alpha}{L_t^\alpha}$
を得ることができます。ここで、1人当たりの資本を$k_t = K_t / L_t$とすると、
$r_t = \alpha k_t^{\alpha – 1} \quad , \quad w_t = (1 \; – \; \alpha) k_t^\alpha \quad \cdots \quad (5)$
となります。
財市場均衡
以上から、財市場が均衡し、「投資=貯蓄」が成り立つものとします。
投資は、次のように表すことができます。
$K_{t+1} \; – \; K_t$
貯蓄は、$t$期の若年期の者が貯蓄を行いますが、同時に、$t$期の老年期の者が資本を取り崩すことになるので、次のようになります。
$s L_t \; – \; K_t$
「投資=貯蓄」なので、
$K_{t+1} \; -; \; K_t = s L_t \; – \; K_t$
であり、$L_{t+1} = (1 + n)L_t$であることに注意し、式変形すると、次のようになります。
$k_{t+1} = \dfrac{s_t}{1 +n}$
この式について、$(4)(5)$式を代入すると、
$k_{t+1} = \dfrac{1}{2 + \rho} \cdot (1 \; – \; \alpha) k_t^\alpha$
であるので、
$k_{t+1} = \dfrac{1 \; – \; \alpha}{(1 +n)(2 + \rho)} k_t^\alpha$
が成り立ちます。
右辺の$k_t^\alpha$の係数は正なので、1人当たり資本$k_t$は単調に増加していくことが分かります。
定常状態
定常状態の1人当たり資本を$k^*$とすると、定常状態では
$k^* = k_{t+1} = k_t$
であるので、
$k^* = \left[ \dfrac{1 \; – \; \alpha}{(1 +n)(2 + \rho)} \right]^{1 / (1 – \alpha)}$
となります。
最後に
このモデルにおいては、関数が特定化されているので、定常状態に行く形になりますが、より一般的なモデルでは、複数均衡が生じることが知られています。
また、ソローモデルなどとは異なり、黄金律を達成せず、資本の過剰蓄積が生じることにもなります。
参考
齊藤誠・岩本康志・太田聰一・柴田章久『マクロ経済学』