はじめに
マクロ経済学において、失業率に関するものとして、「フィリップス曲線」というものがあります。
ただ、フィリップス曲線と言っても、1つではありません。
大きく分けると、3つのフィリップス曲線がありますので、それらを説明したいと思います。
フィリップス曲線
フィリップス曲線とは、経済学者のフィリップスが19世紀半ばからの約100年間について、イギリスの失業率と賃金上昇率の関係を調べたもので、失業率と賃金上昇率の間にはは、負の相関があるとするものです。
図に表すと、下図のように、横軸に失業率、縦軸に賃金上昇率をとると、右下がりの曲線になります。
賃金上昇率を$\dot{w} / w$、失業率を$U$とすると、次のような式で表すことができます。
$\dfrac{\dot{w}}{w} = h(U) \quad (h'(U) < 0) \quad \cdots \quad (1)$
$h(U)$は失業率に関する関数で、失業率の減少関数となっています。
物価フィリップス曲線
上記のフィリップス曲線について、賃金上昇率ではなく、物価上昇率に変えたものを、物価フィリップス曲線と言います。
図で表すと、下図のように、縦軸が物価上昇率になっています。
ここで、通常のフィリップス曲線から、物価フィリップス曲線を数式で導出しましょう。
企業は、労働力のみを用いて生産を行うものとし、労働力を$N$、生産関数を$f(N)$、価格を$p$とすると、企業の利潤関数$\pi$は、次のようになります。
$\pi = p f(N) \; – \; w N$
この企業が利潤最大化行動をとると、一階の条件は、次のようになります。
$\dfrac{w}{p} = f'(N)$
この式は、限界生産力と実質賃金が等しいことを意味しています。
これをPについて、式変形し、名目賃金について、一定率$\mu$を利潤に上乗せすることを考えましょう(この$\mu$を「マークアップ率」と言います)。
$p = \dfrac{(1 + \mu) w}{f'(N)}$
この式について、時間微分すると、
$\dfrac{\dot{p}}{p} = \dfrac{1 + \mu}{f'(N)} \dfrac{\dot{w}}{w}$
が得られ、この式を$(1)$式に代入、$\alpha = 1 + \mu / f'(N)$とし、$\dot{w} / w$をキャンセルすると、
$\dfrac{\dot{p}}{p} = \alpha h(U) \quad \cdots \quad (2)$
となり、物価フィリップス曲線の式を導出できます。
(期待インフレ率を加えた)物価フィリップス曲線
物価フィリップス曲線は失業率と物価上昇率の関係を示したものですが、この企業は物価上昇も予想するとしましょう。
このとき、期待インフレ率を$\pi^e$とすると、物価フィリップス曲線の$(2)$式は、次のようになります。
$\dfrac{\dot{p}}{p} = \alpha h(U) + \beta \pi^e$
なお、この$\beta$は、期待インフレ率が賃金上昇に反映される割合です。
参考
齊藤誠・岩本康志・太田聰一・柴田章久『マクロ経済学』
鴇田忠彦・藪下史郎・足立英之『初級・マクロ経済学』