物価指数
経済活動において、物価は非常に重要です。
同じ財・サービスを購入するにも、物価が高ければ、あまり購入できず、物価が安ければ、多くを購入できるからです。
そこで、経済全体の物価の状況を示すものとして、「物価指数」があります。
そして代表的なものとして、
「ラスパイレス指数」
「パーシェ指数」
の2つがあります。この違いを含め、説明します。
ラスパイレス指数
物価水準を考えるにあたって、まず注意が必要なのが、一時点だけでは物価水準は把握できないということです。
過去と現在など、2つの時点を比較することで、物価が上がっているのか、下がっているのか分かります。
そこで、財が$n$個あるとして、$i$財の$t$期の価格・数量を$p^i_t、q^i_t$とし、基準時点である$0$期の価格・数量を$p^i_0、q^i_t$とします。
このとき、ラスパイレス指数は、次のように定義されます。
$\displaystyle ラスパイレス指数 = \dfrac{\sum^i p^i_t q^i_0}{\sum^i p^i_0 q^i_0}$
分子と分母を比較すると、数量については$q^i_0$と変わりませんが、価格については分子と分母で違っていることになります。
このように、基準時点での数量を元に、価格を比較したのが、ラスパイレス指数となっています。
この方式に基づいて計算されているのが、「消費者物価指数」となっています。
総務省統計局「消費者物価指数(CPI)」
パーシェ指数
ラスパイレス指数の式を見たら、お気づきになる方もおられるかもしれませんが、
「数量を$0$期のものではなく、$t$期のものにしたらどうなるのか」
という発想は当然に出てきます。
そして、この考えのもとに、$t$期の数量を元に、価格を比較したものが、パーシェ指数になります。
$\displaystyle パーシェ指数 = \dfrac{\sum^i p^i_t q^i_t}{\sum^i p^i_0 q^i_t}$
ラスパイレス指数の式と比較すれば更に明瞭になると思うのですが、分子・分母の数量は$q_t$で同じになっています。
このパーシェ指数を用いた統計として、「GDPデフレーター」があります。
内閣府「国民経済計算(GDP統計)」
ラスパイレス指数とパーシェ指数の違い
上記の式からわかるように、
ラスパイレス指数 … 基準時点での数量
パーシェ指数 … $t$期での数量
で大きな違いがあります。
そしてこの違いにより、次のような特徴をもっています。
1つは、パーシェ指数では例えば現在の数量などを用いて、物価指数を計算するので、現在の生活様式・生産量などを反映した指標になっています。
分かりやすい例として、コロナ禍中において、その前後の旅行について考えましょう。価格については勿論、コロナ禍の前後で変わっていますが、数量(旅行に行く回数)も大きく変わっています。そうしたときに、コロナ禍前の旅行をバンバンと行っていたときよりも、コロナ禍中においては、そのときの減少した旅行回数で物価を比較したほうが、現在の状況を把握するのに相応しいと言えます。
このことから、パーシェ指数のほうが、現在の状況を著している指数と言えるでしょう。
2つは、パーシェ指数のほうが、ラスパイレス指数よりも、物価指数は低くなることが知られています。
理由としては、物価が変化すれば、その数量も変化することになるわけですが、パーシェ指数ではその変化した数量をベースにしているためです。
例えば、物価が上昇すれば、それに対する購入数量は減少することになります。ラスパイレス指数では物価上昇前の数量で物価指数を計算するのに対し、パーシェ指数では物価上昇後の数量で物価水準を計算するので、そのウエイトから、パーシェ指数は低めの値になります。
3つは、ラスパイレス指数のほうが、パーシェ指数よりも物価水準を把握するのが、簡単な(時間がかからない)点です。
価格については、いろいろな品目の財・サービスの価格を調べれば、分かりますが、数量を把握するのは容易ではありません。ただ、ラスパイレス指数では過去の数量を基準に計算できるので、パーシェ指数よりも、算出することができます。
なので、ニュースなどで物価が上がった・下がったなどといった場合は、 ラスパイレス指数をベースにした消費者物価指数が用いられているのは、このためです。
最後に
物価指数の代表であるラスパイレス指数・パーシェ指数について説明しましたが、いずれも「固定方式」と呼ばれるものです。
ただ比較する基準時点が以前になるほど、バイアスが生じることになるので、この他に、前期を基準としながら連鎖させていく「連鎖方式」というものもあったりもします。
参考
齊藤誠・岩本康志・太田聰一・柴田章久『マクロ経済学』
鴇田忠彦・藪下史郎・足立英之『初級・マクロ経済学』
中村保・北野重人・地主敏樹『マクロ経済学』