はじめに
マクロ経済学において、基本的なIS-LMモデルは、横軸に所得、縦軸に利子率をとり、右下がりIS曲線と左下がりのLM曲線が交わるところで、所得と利子率が決まるとされます(下図)。
このとき、暗黙的に仮定されているのは、物価は一定であるという点です。ただ実際の経済を考えると、物価の影響を無視することはできません。
そこで、IS-LMモデルをベースに、所得と物価の関係を考えるのが、「総需要曲線」(AD曲線)となります。
総需要曲線の導出
IS-LMモデルをベースに、物価が上昇したとき、所得がどのようになるかを考えましょう。
グラフで表すと、次のようなものになります。
そして、このプロセスは次のようになります(グラフの赤矢印の番号は、以下の番号に対応しています)。
「①」物価上昇(P → P’)
まずは、物価が上昇したとします。
「②」LM曲線が左上にシフト(LM → LM’)
物価が上昇すると、一定の貨幣供給のもとで実質貨幣供給量は減少します。その結果、LM曲線は左上にシフトします。
「③」利子率の上昇(r → r’)
貨幣市場では(実質)貨幣供給量が減少したことから、貨幣への超過需要(過少供給)が生じます。
貨幣が欲しい人が増え、逆に預金・債券への需要が減少するため、利子率の上昇が生じます。違う言い方をすれば、貨幣市場が均衡するには、貨幣への超過需要が生じると、貨幣を所有することで得られなくなる利子率(貨幣保有コスト)は、より高くなる必要が生じます。
「④」所得の減少(Y → Y’)
LM曲線が左上にシフトし、利子率が上昇したことから、設備投資を減少させることになり、所得が減少することになります。
以上から、物価が上昇すると、所得は低下することになります。そして、逆のプロセスで、物価が下落すると、所得が上昇することになります。
(なお、物価が上昇すれば、名目所得が減少するのは当たり前と言えますが、このモデルの所得は実質所得なので、直接、物価の影響を受けることはない形です)
この関係を元に、所得と物価の関係について、グラフで表すと、下図のように、右下がりの総需要曲線を得ることができます。
参考
齊藤誠・岩本康志・太田聰一・柴田章久『マクロ経済学』
鴇田忠彦・藪下史郎・足立英之『初級・マクロ経済学』