はじめに
一般的に、先進国と発展途上国との間で、物価を比較すると、途上国のほうが物価が低いことが多いと思います。
ところで、なぜそのようなことが生じるのかについて答えるのは、容易ではありません。
貿易が行われている財・サービスならば、国々の間で取引も行われているため、途上国であまりいい物を作れていなければ、物価が低くなることは理解できます。しかし、美容室などのように、貿易が不可能なような財・サービスでも、途上国のほうが物価は低くなっています。
このような問題に、1つの答えを与えているのが、バラッサ・サミュエルソン理論です。
バラッサ・サミュエルソン理論による考え
バラッサ・サミュエルソン理論は元々は実効為替レートに関する理論ですが、先進国と途上国との間の物価差を説明するものともされています。
まずは、貿易財と非貿易財に区別して考えます。
途上国の貿易財について、労働生産性が上がり、国際競争力がつくと、高い価格で輸出などができます。そして、貿易財の生産を行っている労働者の賃金は上昇します。
ここで、貿易財・非貿易財部門において、労働者の移動が自由に行うことが可能であれば、貿易財部門のほうが非貿易財部門よりも賃金は高いため、労働者は貿易財部門に移動します。
他方、非貿易財部門では、労働者不足になったり、貿易財部門への労働者の移動を防ぐため、非貿易財部門でも賃金が上昇し、ひいては物価が上昇することになります。
以上のプロセスについて、貿易財・非貿易財の物価を$P_T \, , \, P_N$、貿易財・非貿易財の賃金を$w_T \, , \, w_N$として、まとめると、次の通りです。
①貿易財の労働生産性の上昇
貿易財の労働生産性の上昇が起こると、貿易財の物価や賃金は上昇します。
$P_T \, , \, w_T$ ↑
②賃金の格差
貿易財の物価や賃金が上昇した結果、価格や賃金について、貿易財と非貿易財の間で格差が生じます。
$P_T > P_N$、$w_T > w_N$
③非貿易財部門の賃金の上昇
貿易財と非貿易財の間で、賃金の格差が生じますが、労働者の移動等を通じて、それは均等化する方向に向かい、非貿易部門の賃金は上昇します。
$w_N$ ↑
④非貿易財部門の物価の上昇
非貿易部門の労働者の賃金が上昇した結果、非貿易部門の物価も上昇します。
$P_N$ ↑
以上から、貿易財の労働生産性の上昇がポイントになっていることが分かります。
途上国の物価の低さの原因
バラッサ・サミュエルソン理論を前提にすると、貿易財の労働生産性の高さが、物価を決めているとなります。
そうしたとき、発展途上国では、一般的に貿易財の労働生産性は低いため、途上国の物価も低いことになります。
すなわち、
先進国:貿易財の労働生産性 高い ⇒ 物価 高い
途上国:貿易財の労働生産性 低い ⇒ 物価 低い
となります。
参考
藤井英次『コア・テキスト国際金融論』