共有地の悲劇
共有地の悲劇とは、各個人が利益を追求したとき、社会的には望ましくない状態に陥る現象です。
ある牧草地があり、牛を飼っているとしましょう。
個々の牛飼いはできるだけ儲けるため、どんどんと牛を多く飼うのは、合理的と言えるでしょう。
しかし、多くの牛飼いがこのようにどんどんと多くの牛を飼うと、牛が牧草を食い尽くしてしまい、結局は牧草がなくなってしまいます。
このような状況を、共有地の悲劇と言います。
これはあくまでも一つの例ですが、漁業における乱獲などで当たり前に生じる現象です。
数式モデル
それでは、なぜ共有地の悲劇が起こるかと言えば、社会的に望ましい水準以上に、多くの生産が行われるからです。
これを、簡単に数式モデルで説明します。
社会的に望ましい水準
個々人の行動について考える前に、社会的に望ましい水準を考えましょう。
ある牧草地で、この牧草地を管理している組合が牛を飼うとします。この牧草地全体の牛数を$X$、価格を$P(x)$、牛を飼うための単位費用を$c$とすると、この組合の利益を$\Pi$は
$\Pi = P(X) X - c X$
となります。ここで、$P(X)$は牛が多くなると、牛1頭当たりの価格が減少する外部性を表しています。$P(X)$では分かりにくいので、次のような関数を仮定します。
$P(X) = a - X$
牧草地全体の牛の数$X$が大きくなると、$P(X)$は小さくなり、儲からなくなる形になっています。
この式を、上記の利益に代入すると、
$\Pi = (a - X) X - cX$
が成り立ちます。そして、この利益$\Pi$を最大化するように、組合が行動すると、
$\displaystyle \dfrac{\partial \Pi}{\partial X} = a - 2X - c = 0$
となり、式変形すると、この牧草地での牛数$X$は、次のようになります。
$\displaystyle X = \dfrac{a-c}{2}$
各人がバラバラに行動した場合
ある牧草地で、$n$人の牛飼いがおり、$i$番目の牛飼いは$x_i (i=1, \cdots , n)$だけ、牛を飼うとします。
このとき、牧草地全体の牛数$X$は
$\displaystyle X = \sum_{i=1}^n x_i \quad \cdots \quad (1)$
となります。
ここで、$1$番目の牛飼いを考えましょう。この牛飼いの利益を$\pi_1$とすると
$\pi_1 = P(X) x_1 - c x_1 \quad \cdots \quad (2)$
となります(価格や単位費用は上記と変わりません)。
$(1)$式と$P(X)$の式を$(2)$式に代入すると、
$\displaystyle \pi_1 = \left( a - \sum_{i=1}^n x_i \right) x_1 - c x_1$
となります。そして、この式を最大化するように、$1$番目の牛飼いは$x_1$を調整すると($x_1$で微分すると)、
$\displaystyle a - \sum_{i=2}^n x_i - 2 x_1 - c = 0$
が成り立ちます。
この式から、$1$番目の牛飼いは
$\displaystyle x_1 = \dfrac{1}{2}\left( a - c - \sum_{i=1}^n x_i \right) \quad \cdots \quad (3)$
だけ、牛を飼うことが分かります。
ところで、$n$人の牛飼いは同質的なので、
$x_1 = x_2 = \cdots = x_n$
が成り立ちます。これを用いて、$(3)$式に使うと、
$\displaystyle x_1 = x_2 = \cdots = x_n = \dfrac{a - c}{n + 1}$
となり、牧草地全体の牛数は、
$\displaystyle X = \dfrac{n}{n+1}(a - c)$
となります。
比較
社会的に望ましい水準と各人がバラバラに行動した場合を比較すると、
$\displaystyle \dfrac{a-c}{2} < \dfrac{n}{n+1}(a-c)$
が成立するので、各人がバラバラに行動した場合のほうが、牛数は多くなることが分かります。
ちなみに、丁寧に説明すると、次が成り立っていることに注意してください。
$\displaystyle \dfrac{n}{n+1} - \dfrac{1}{2} = \dfrac{n-1}{2(n+1)}> 0 (n \geq 2)$
更に、牛飼いの数$n$が多くなるほど、牛数$X$は増えることになります。